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HEWLETT PACKARD HP-15C
初めて買った電卓。
大学でも「アルバイトをしてPC-9801を買った」という友達がクラスの中で脚光を浴びた時代。プログラマブル電卓も当時のコンピュータ雑誌によく紹介されていた。
当時のHP電卓はプログラマブル電卓であるHP-41Cがハイエンドとされていて、HP-15Cはその次の世代のハイエンドと考えらえていた。HP-41Cのような拡張性はない一方、行列演算や複素演算が追加されて輝くほどの存在感だった。さすがに行列の入力には難儀するが、複素数演算機能には力率の計算でおせわになった。HPのマニュアルは例題も豊富だが、回路の計算が多いのは最初のユーザーが自社の回路設計者だということもあるのだろう。
HP-41Cまでの電卓が黒を基調としたごつい形のデザインであったのに対して、HP-15Cをはじめとする新世代電卓は薄くスマートなデザインになった。薄くはなったが、キーは整形プラスチック製のしっかりした押し心地のもので、使っていて気持ちがいい。カメラのフィルタを外し忘れたので液晶が変な色だが、実物はきちんと表示される。
多くの機能を持っているのでシフトキーをつかってキーに複数の機能を載せている。よく見ると、fキー(オレンジ)の機能は本体に書いてあるが、gキー(青)の機能は傾斜したキーの前面に書いてある。この書き分けのおかげで、ボディがごちゃごちゃせずにすんでいる。キーの形は初代から続くキートップが前傾したデザインを継承したうえで、前面も傾斜させてgキーの機能を見やすくしている。
あまり語られないが、異様に電池の持ちが良いこともこの電卓の特徴だと思う。電源スイッチは物理的に電池を切り離しているわけではないので、微弱な電流が流れているはずだが、感覚的に10年近く電池が持つ。あるいは日本製電卓だとそのくらいもって当たり前なのだろうか。
機能と使いやすさと所有欲を満たすデザインが高いレベルでバランスしている。値段も当時の日本製電卓に対して頭ひとつ抜けていた。この電卓は百貨店の文具売り場で購入した。私が育った街ではそこでしか扱っていなかったのだ。
このころのラインナップにはHP-16Cという有名なプログラミング電卓がある。HPはそもそも測定器メーカーであり、HP-15Cは自社の測定器開発者が欲しい機能、HP-16Cは電卓開発者自身が欲しい機能を盛り込んだのだろう。と、思っていたのだがHP-15Cに行列や複素数を入れたのはHPのコンサルタントをしていたウィリアム・カーン博士の希望だったらしい。
https://wakimiunten.hatenablog.com/entry/2021/02/15/204539
しかしながらそのHP-15Cも機能競争の中で代替わりし、HP-16Cは市場がないため1代限りで消えていった。HPと直接関係ない金融分野向けのHP-12Cだけが現在に至るまで生産されているのは、多少の皮肉を感じる。
HPの電卓には熱心なファンがついており、この電卓も今でも世界中で大事に使われている。購入から35年経つが、私も普段から机の上においてちょっとした計算はこの電卓を使うことが多い。