商店建築図案@大正後期の商店建築デザインコンペ優秀作品選集

0

前回のショウウィンドウ図案
https://muuseo.com/lab-4-retroimage.jp/items/154
に引き続き、震災復興期の建築資料展覧会に出品された公募商店建築デザイン画の受賞作を今回は取り上げる。

1・2枚目の「洋品化粧品ト美容店」、3枚目の「喫茶店」、4枚目の「金物商(普通一般家庭ニ用フル諸金物)又ハ硝子商(シートグラ(<「シートグラス」の誤りとおもわれる。要するに板ガラス)及びガラス製器具)」の3つが金賞、5枚目の「寫眞機諸材料店」、6枚目の「化粧品店と附設理容館」、7枚目の「寫眞機業商店」、8枚目の「小さな百貨店」が銀賞を勝ち取った作品。各階平面図もそれぞれにあるのだが、画像の枚数制限があるのでほぼ割愛。どれも正面の造作はかなり凝っている。屋上庭園を設けたり、水洗便器や汚水浄化装置・温水暖房設備を導入したり、とかなり先進的な仕様で、最初に掲載されている建物などは、1階が洋品雑貨売り場と事務室、2階が化粧品・薬品売り場と休憩室、3階が男女ヘアサロンと貸し展示会場と事務室、4階が店主一家の住処と女中、店員の居室というプランが想定されていて、荷物上げ下ろし用のエレベータまである。二つ目の喫茶店は貨客用エレベータつきだ。内部は壁面にレリーフをあしらい、調光スイッチつきのブラケット灯がそれを照らし、またガス灯も併用すると書いてある。三つ目の商店は金物やガラス製品以外の小売商でもよく、また上階は貸店舗や賃貸居室を設定可能なことも想定している。

実はこの図案集、国会図書館デジタルコレクションに帝國圖書館旧蔵の初版が公開されている
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/966918
のだが、序文の後の図版ページが頭から4丁分失われている。だから最初の「洋品化粧品ト美容店」は平面図も含めまるまるなく、次の「喫茶店」も正面図・立面図が欠けているのだ。帝國圖書館の蔵書は、デジタルコレクションでインターネット公開されているものだけでも一部のページ抜けや破れ欠損・書き込みなど、利用者のモラルを疑わせる痕跡が相当数みられる。この本の欠落ページも最優秀作品のところが消えているわけで、おそらくはさもしい性根の手合いがこっそり破り取って持ち去ってしまったものとおもわれる。いつの世にもほかの人々の迷惑を顧みない困り者は少なからずいた、ということを端的に示しているのだろう。

なおこれらの図版は拡大してみても網点がなく、写真をコロタイプで縮刷したものとおもわれる。だから細かいところまでかなりよく見えるのだけれども、それでも手書きの解説文や註釈などの文字が小さくてなかなか読み取りづらいページもある。余白をかなり大きくとってあってかっこいいレイアウトではあるが、それにしてももうちょい読みやすくできなかったのかな、というのが正直なところww

それにしても、こんなスタイリッシュで趣味のよい建物群が整然と建ち並ぶ通りを散歩したら、どんなにか心たのしいことだろう。今のピカピカした、面白味も統一感もないガラス張りのハコをごちゃごちゃと並べたてた都市風景は、機能的にははるかに進歩しているのだろうけれどもどうも好きになれない。

商店ショウウィンドウ図案@大正後期の商店建築デザインコンペ優秀作品選集
大正12年(1923年)9月、南関東を襲った大震災により壊滅した帝都を、単なる都市機能の復旧だけでなく、その景観をも意識した美観あふれる街として復興しよう、という機運はかなり早くから盛り上がったようで、だいぶ前に図版研架蔵資料目録の方で昭和初期の例を取り上げたことがあるが、欧米の都市で最尖端のデザインを身をもって接してきた民間人による図案集が大正の末ごろから続々と刊行された。その一方で、公の機関による商店建築のデザイン競技会が企画され、公募作品のなかから特にすぐれたものを集めた図案集も震災の翌年に出ている。これは予想を超えた人気を呼んだらしく、なんと初版が出てから半月で再版されている。今回はその図案集から「店頭計畫圖案」、つまりショウウィンドウのデザイン画をいくつかみてみることにしよう。 この本の序文によれば、その競技会は府立東京商工獎勵館が大正13年(1924年)5月1日から翌6月10日まで開催した「帝都復興建築資料展覽會」の展示品の一部として企画されたもので、「(甲)商店(住居を含む)計畫圖案」「(乙)店頭計畫圖案」の二種を募集した。いずれも幅11メートルの大通りに面した、間口10メートル奥行き25メートルの敷地に新築するものとし、甲の方は鉄筋コンクリート耐火造に限り、乙の方は任意とされていた。懸賞として最優秀賞である金賞は3名、優秀賞の銀賞は5名と設定されたが、4月25日の〆切までに寄せられた応募総数は260、半分以上は東京府内からだったが関西からのものも多く、北海道や満州から送られてきたものもあったという。乙、つまり店頭計画図案はそのうちたった32で、やはりどうせ出すなら建物全体をやりたい、と考えるデザイナが多かったようだ。委嘱された4名の専門家が審査した結果、商店建築110、店頭は18が入選となり、そのうち金賞はいずれも商店建築、銀賞はひとつを除いてやはり商店建築が受賞した。展示会場では入選作品全128点が観覧に供され好評を博したそうだ。 なお府立東京商工獎勵館は、欧州大戦後に盛んになってきた国内工業のレヴェルアップを目的に東京府と実業界とがタイアップして大正6年(1917年)から寄附を募りはじめ、同10年(1921年)にそれを資金として有楽町の東京商業會議所そばに建てられたそうだ。後には東京都へ引き継がれ、大正13年(1924年)設立の東京市電氣研究所の後身と合併して東京都立工業技術センターとなったが、これが現在の東京都立産業技術研究センターの前身のひとつとなったという。 https://tobira.hatenadiary.jp/entry/20140715/1405402793 さて前置きが長くなってしまったが、1・2枚目が店頭計画図案作品の中で唯一銀賞を勝ち取った入選作。アール・ヌーヴォー調の植物文を主体とした、現在の東京ではおよそお目にかかれないような優美なデザインで、特に照明効果を意識しているためだろう、夜景として描かれているようだ。説明文には「洋品店店頭として計畫せり」とある。金物はすべてブロンズで、青みがかった仙徳鍍金仕上げ https://www.atomlt.com/kanamono_sc/sc03/sc03_13/ 、左右の飾り窓周囲は特製タイル貼り、内部の天井部分は金属板に銀色のエナメル塗装で前面は分厚い磨き板ガラス入り、入口手前の天井は石膏色に金彩、床は人造石磨き出しで植物や小鳥の模様を描きタイルを貼りまぜるなど、あれこれ凝った仕様が指示されている。 3枚目以降は「選外」で、「MATSUYA」とロゴが掲げられているのは化粧品店、4枚目はショウケースの中にグランドピアノやギターが見えるとおり楽器店、5・6枚目の「アサヒヤ」は洋服洋品店、7枚目の「TOILET SHOP」は化粧品店で、外光が前者の立面図で庇下や張り出し窓のショウケースなどに影をつくり、後者の平面図で2箇所ある両開き框扉のガラスを透かして店内に床面を照らしているさまが表現されている。8枚目は文房具店で、まぐさを飾る銅鈑打ち出し模様や鉄骨鋼鈑張りに繊細な模様のステンドグラスをあしらった左右出入り口の扉など、これまた凝った造りだ。 折角なので、次回は商店建築図案作品の入選作の方も取り上げてみることにしよう。
https://muuseo.com/lab-4-retroimage.jp/items/154

Default