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A GUIDE TO THE LABYRINTH / JIM MORRISON
昨夏に予約を募り今春漸く発売された豪華本で、版元の英ジェネシス・パブリッシングは、多くのロック・アーティストの超豪華限定本を発刊していることで有名です。英国の伝統というのか、凝りに凝った仕様のコレクタブルな本ばかり。そしてだいたいどれも異常に高い。ただし、この詩人になりそこなったロック・シンガーの文業は、現時点では、いささかヤリスギの感も否めないものの最終形決定版と言っていいでしょう。例えば、先にハーパーデザイン社から出された分厚い「ザ・コレクテッド・ワークス」では、「蜥蜴の祝宴」の詩はオリジナルのノートブックのページ写真が掲載されていましたが、こちらではそのノートブックを丸ごと一冊そのままレプリカとしてボックス内に収納しています。(写真三枚目・中央) その表紙には「リザード・セレブレイション」と記され、手書きのページを手繰れば、音楽と効果音をバックにアルハム片面すべてを費やして目論んでいたといわれる「詩による放送劇」を意図していたことが明確に伝わります。 他にも写真二葉、ノートのレプリカがもう一冊、朗読の17cm盤レコード、アウターバッグなどがセットされ、本体には実妹・実弟・元同僚のミュージシャン二名の直筆サインが入った限定2000部。ブライアン・ジョーンズに捧げた詩も原型を再現されています。600ページ余には、あの「ポニー・エクスプレス」の原稿写真、後に「ソフト・パレード」の一部となる歌詩を含む、もう一つの「放牧地帯」なども掲載。勿論幼少期から晩年に至るまでの未発表写真も多数。 どこへ行くにも常にノートを持ち歩いていたというこの人の、徹底して言葉で人間を探ろうとした試みの記録は、やはり文学者と共通する姿勢を感じさせるに十分です。27歳でそれは絶たれてしまうのですが、酒でも詩でも音楽でもなく、結局のところは死が彼の出した結論だった、生涯の最期、わずか数年間で彼を規定し苦しめたロックンローラーとしてのキャラクター、それを自身で殺したという見方もできるでしょう。 余人には読まれたくない習作がここまで露にされてしまう不幸は夭折者の宿命。人生を軌道修正する時間は自ら絶ったに等しい、衝動が理知に勝ったというべきか、しかしその衝動こそ、それを装った理知だったのかもしれません。このあたりが実に面白いのだこの人は。 没後半世紀を経て、いよいよ彼の歌と音楽は、その「言葉」とクロスフェイドされていくのではないでしょうか。そんな事も感じさせる一冊です。 事実、今世紀に入ってからは名盤とされる一枚目ですら世界的には音楽上の褪色を指摘され続けています。今後はこの書籍が象徴するように、ただ英語圏のみでの、しかも極めて狭いフィールドでのマニアックな文学上の評価がなされていくだけなのかもしれません。そして一般的には単に、チェ・ゲバラ同様に何をした誰かも知られないままただTシャツの中のアイコンとしてしか認知されなくなるのでしょう。
朗読 7" Single 書籍 genesis揖斐是方
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ESP 日本盤 コンパクト 『オーネット・コールマン/タウンホール・コンサート』
日本では最後に国内盤のCDが出てから30年近く経っているのではないですか、米国のカルト・コレクタブル・フリーキー・レーベルのESP。もう誰も興味は持たないですかね。歴史的名盤も擁するフリー・ジャズにおけるこのレーベルの重要性は、やはり看過できないものがあるでしょう。1960年代は日本ビクター・ワールド・グループが国内発売を行なっていました。もちろん、あのすべてのカタログではなく、ごく一部ですが。1968年1月にジョン・コルトレーンのものとともにリリースされたのが、このコンパクト盤です。オリジナルの定価は500円。収録曲が長いので、シングル盤ではなく、それより高い設定の規格で出されたレコードで、やはり「コンパクト盤」といったところでしょうか。ジャケット、タイトルが示すようにこれは『タウンホール1962』からのカットです。長いキャリアの中でも不遇時代で、活動歴の中でのミッシング・リンクとなる貴重なライブ・アルバムであることと、内容のすばらしさ、そして何よりもESPの日本盤17cmコンパクトという点で、ずいぶん長い間探していた一枚です。ゴッズのものと、ポール参加の盤「パスオンジスサイド」からのカットくらいしか米国盤ESPシングルなど記憶にない中での日本盤笑。ただし、これは白レーベル。やっぱり当時は売れなかったんだろうなーと確信できるわけですが。#freejazz #ESP #ornettecoleman
フリー・ジャズ 7" コンパクト ビクター ESP揖斐是方
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寺山修司が作詞した長嶋茂雄讃歌を歌う元・スイングウェストの湯原昌幸
鬼才、というより天才・寺山修司が作詞、製作協力が巨人軍とよみうり映音、歌うのは「雨のバラード」の元・スイングウェスト、あのハンドマイクを口からできるだけ離して歌う湯原正幸。たまたま入手した雑多なレコード群の中に紛れこんでいた一枚。二曲ともなんの変哲もない至極真っ当な長嶋讃歌・応援歌でです。「君のうしろに百万の 巨人の星が燃えている がんばれ長嶋ジャイアンツ」というのはいいのです、なんの問題もありません。しかし驚くべきは、これが寺山のペンによるものという事実、あのテラヤマ・ワールドに親しむものとしては、この歌詞こそ「変哲」以外の何物でもないのです。どうした寺山。巨人ファンだったのは知っていたけれど、まさかこんな曲を作詞していたとは。およそあの寺山のイメージとは結びつかない作風、まさかの直球一本鎗、ありとあらゆる寺山の表現作品の中でもこれは、間違いなく異色作のひとつでしょう。#巨人軍 #長嶋茂雄 #寺山修司
応援歌 7" Single キャニオン揖斐是方
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旧ソビエト連邦 メロディア・レーベル ローリング・ストーンズの4曲入りソノシート
1980年代の初めころには、ストーンズもメロディアから立派なコンピレイション・アルバムが発売されたと記憶しています。これは、それ以前の製品のように思いますが定かではありません。収録されている「黒く塗れ」「涙あふれて」「ルビー・チューズデイ」「レディー・ジェーン」のモノラル・ヴァージョンは圧政に苦しむ人々の上に垂れこめる鉛色の空の下で、密かに響いていたことでしょう。笑い。実際には、どういう心情でソ連のロック・ファンはこれを聴いていたのか?国営レーベルからの物なので、なにもコソコソと非合法な音楽を、後ろめたさをもって聴いていたわけではないのか?よくわかりませんが。スリーブの紙質は当時の共産圏ほぼ共通の粗悪なもの、もちろん印刷も。そして盤面のレーベルにあたるところには、文字情報が印刷ではなくエンボス仕様になっているところがいかにもソ連。ただし、現在わざわざこういうもので初期ストーンズを聴くというのは、当時のソ連人の、想像力で補いながら聴いた西側ロックへの希求を疑似体験しているような、妙な味わいがあるのです。#therollingstones
ロック 両面ソノシート メロディア揖斐是方
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「幻のブルース」 フラワー・ショウ 華ばら 藤本卓也 泥臭い
何事においても、濃くて泥臭く古臭くてベタな表現が影を潜めてから、この国はつまらなくなったとお嘆きの方はいらっしゃいませんでしょうか。作曲家・藤本卓也などはまさしく歌謡界でそのスジの権化、矢吹健「あなたのブルース」を筆頭に昭和史を彩る、所謂ディープ歌謡の巨匠。夜のワーグナーだかドビュッシーだか知らんけど。ローオン・レーベルからのリリースなので作風はコテコテのナニワサウンド、あの「フラワーショウ」の華ばらがワイルドかつパンチのある歌唱を聴かせる「まぼろしのブルース」です。そういえば「まぼろし」などと言う言葉はとっくに使われなくなりました。昔は「まぼろし探偵」「幻の湖」「まぼろしの世界」「幻の10年」などいろいろありましたが。イロモノの芸人さんがレコードを出してそれがヒットすることが昔はよくありました。中にはとても巧い人もいて、すっかりその気になって笑いをないがしろにした人もいましたが笑。この楽曲は勝彩也や佐久間浩二などのバージョンも勿論有名ですが、アレンジの巧さも相まってこの盤が一番迫力に富んでいます。
ディープ歌謡 7" Single ローオン揖斐是方
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昭和脱力歌謡 『青いゴムゾーリ』バーブ佐竹
坂本九の夜空路線に寄せたと思しきシングル「星が云ったよ」(1967年)のB面、かつて小堺・関根の深夜放送で話題となった脱力歌謡の極北「青いゴムゾーリ」です。作曲はシナ・トラオこと佐竹本人。歌われるのは1960年代の夏のビーチ・リゾートで履かれるゴムゾーリを己の弟分としてとらえた、たとえようもないシュールかつ脱力感いっぱいの異様な歌詞です。「青い青いゴムゾーリ/ひとりで歩いている時も/いつもペタペタついてくる/沖に向かって投げたのに/波にゆられて帰ってきた/妙な奴だよ青いゴムゾーリ」もちろんスティール・ギターの演出でハワイ感横溢のアレンジです。ただし当時のハワイとは、たぶん全国に点在していたであろう「なんとかハワイアン・ランド」というでかいプールが売り物のアミューズメントのイメージ、昭和40年代でもまだハワイ航路は憧れで、せいぜいこうした歌と「ハワイ疑似体験」プールで満足する、そんな時代でした。佐竹の低音ボーカルでそういう時代のこうした歌を現在聴き返すと、ハワイではなく「当時の日本国」に対する異国情緒(笑)が。つまりそれほど現在では考えられない要素ばかりの、今とはかけ離れたテイストの楽曲といえましょう。大人が大人のために創った娯楽音楽というものが、かつてはこの国にもあったことの証明です。ヒット曲「女心の唄」をフィーチャーした4曲入りコンパクトピクチャーソノシートに写るモアイ像、もしくは将棋の駒に等しきポートレートも潔い。
歌謡曲 7" Single ソノシート キング揖斐是方