ひそかにスコットランドの戦車を作ってます(その2…考証編)の巻

初版 2020/05/20 21:18

改訂 2023/08/05 11:29

さて、先日より「どの部隊のどのマーキングにしようかな。」と楽しい悩みを抱えているタミヤ1/35のM5A1スチュアートですが、せっかくなのでちょっと真剣に考察してマーキングを決めたいと思います。

(※タミヤのカタログより。これは米軍仕様ですね。)


そもそも…のところからですが、、、

M3およびM5軽戦車は、レンドリース法により米国から英国に供与され多数が英陸軍でも運用されました。


ところで、昔から我々には「M3スチュアート」と刷り込まれていますが、この“スチュアート”という名前は英兵が付けたニックネーム、当時は米軍ではそう呼ばれていなかったそうです。(実はあの有名な“シャーマン”も同じで、米兵はシャーマンとは呼んでいなかったとのこと…。ある意味で驚きですよね…w)


さて、英軍に供与されて“スチュアート”と名付けられたM3軽戦車ですが、

 M3  = Stuart I(スチュアート・ワン)

 M3A1 = Stuart III(  〃  スリー)

 M3A3 = Stuart V(  〃  ファイブ)

というニックネームで呼ばれ、M3系列の後期型であるM5系列は

 M5   = Stuart VI(  〃  シックス)

 M5A1 = Stuart VI(同上  ※この2形式は区別されず)

と呼ばれます。


英国系の資料本にはM3A3とかM5A1などの型式では出ておらず、Stuart VとかStuart VIと記載されていたりすることが多いので、ここをしっかり確認しておく必要があるわけです。

…ということで、この1/35のM5A1のモデルは、“スチュアート・シックス”(Stuart VI)なのです。


今回、資料本からの調査で以上の名前の区分が必要なところは、

①   車両番号 (Tank Number)

②   重量区分表示 (Bridge Class Sign)

です。


まず「①車両番号」ですが、資料本「WARPAINT Vol. 1」(Colours and Markings of British Army Vehicle 1903-2003)によると、

Stuart VIについては、、、うーん、VIが出ていません。

いきなり頓挫…orz


しかし、掲載されているリストの中で最も後期の「Stuart V」がT231126~T231625の500両で、その下の下の欄に、単に『Stuart』として『T236262~T236761』の500両が有る…と書いてありますので、時期的にこれがStuart VIなのだろう、と勝手に解釈しましょう。(こういうところでスタックすると、製作が進みませんので、時には”都合の良い解釈”が大事!)


車番は『T236262~T236761』の範囲から選ぶことにしまして、さらに今回は特定の実在の車両を対象に製作していませんから、番号は手持ちのデカールの組み合わせで再現できそうな適当な番号にしちゃうことにします。


次に、通過可能な橋梁クラスを示す表示ですが、同じシリーズの資料本「WARPAINT Vol.4」によりますと…、

Stuart VIの重量区分表示は「15」(15tクラスという意味)だそうです。

この表示は橋を通過する際の目安として、車両の自重を示す表示です。

この15の数字が黄色い丸の中に書かれます。


しかし、残念ながらこのデカールがありません。

手作りデカールのシートでプリンターにより作るか、またはこの表示は書いていない車両もある(or搭載荷物で隠れる)ので「省略しちゃってもいいかな」と気楽に扱いましょう。(こういうので真剣に悩むと、製作が止まっちゃうんです。それより工程を進めることが大事!)


さて、あとは最も楽しい「どの部隊の車両にするか」ですが、、、


前にも書きました通り、私の趣味で“スコットランド系の戦車連隊”にすることは決めておりまして…、

4RTR(王立第4戦車連隊)やスコッツグレイは既に他のモデルで作っていますし、せっかくなので今まで作ったことが無く、今後もあまり作らなさそうな部隊を選んでみようかと思い、あれこれ資料本を見てみました。

この辺を見てみましょう。。。

その結果、『第2ファイフ&フォーファー義勇農騎兵連隊』(2FFY=2nd Fife and Forfar Yeomanry)にすることにしました。


スコットランドのハイランド地方の最南部、エジンバラからフォース湾を渡ったところがファイフ地方です。あのゴルフで有名なセント・アンドリュースを抱える地方で、2FFY連隊はここを基盤としていたヨーマンリー部隊、すなわち“義勇農騎兵”の部隊です。

この赤いところ↑


ヨーマンリーというのは、元は正規の陸軍部隊ではなく地方を基盤とする民兵部隊とでも言いましょうか、地方の比較的富裕な農民層からの志願者で編成された騎馬部隊でしたが、1900年代初頭のボーア戦争への派兵を経て、第1次世界大戦のころには正規軍の一部として陸軍の構成を支える主要な部隊のひとつになっておりました。


2FFY連隊のルーツは約230年前まで歴史を遡ります。


1794年に編成され、後に「フォーファー義勇農騎兵」(Forfar Yeomanry)と呼ばれた部隊と、1797年に編成され、後に「ファイフ義勇農騎兵騎馬隊」(Fife Yeomanry Cavalry)と呼ばれた2つのヨーマンリー部隊がその起源です。


これがFFY連隊の記章です。

1899年に始まった第2次ボーア戦争で苦境に陥った英陸軍は、本来なら本国の地域防衛を担当するヨーマンリー部隊を、正規軍同様に外征派兵することを決定します。


このとき、各地のヨーマンリー部隊に英王室より正式に紋章が与えられ、その名前に“インペリアル”を関することとなり「帝国義勇農騎兵隊」(Imperial Yeomanry)が組織化されました。(※インペリアル・ヨ―マンリーは、映画「戦火の馬」でも重要なキーワードですね)

(ボーア戦争時のImperial Yeomanryの姿)


この際に、ファイフとフォーファーの二つのヨーマンリー部隊は統合され、「ファイフ地方およびフォーファー地方・帝国義勇農騎兵連隊」(Fifeshire and Forfarshire Imperial Yeomanry)となったのが、後のFFY(ファイフ&フォーファー・ヨ―マンリー)のルーツでした。


第1次大戦では第1から第3までの3つの連隊が編成、そして第2次大戦では第1(1FFY)と第2(2FFY)の2つの連隊が編成され各戦線へ派兵されます。


第2次大戦では、2FFYの先輩にあたる第1、すなわち1FFY連隊はBEF(英国大陸派遣軍)に第51ハイランド師団の一員の偵察連隊として参加、ドイツの電撃戦によりダンケルク撤退の苦渋を飲まされています。


のちに戦車部隊に改編され、火炎放射戦車、障害処理戦車、架橋戦車、地雷処理戦車など特殊な戦車を装備し、“ホバーツ・ファニーズ”(ホバート将軍の変な奴ら)として知られる特殊な部隊「第79機甲師団」を構成する特殊戦車連隊のひとつとなり、ノルマンディに上陸して終戦まで欧州戦線で戦いました。

(欧州戦線における1FFYのチャーチル・クロコダイル火炎放射戦車)


そして、今回製作の対象とする2FFY連隊ですが、第29機甲旅団を構成する3つの戦車部隊のひとつとして、雄牛のマークで有名な第11機甲師団の隷下となりノルマンディより欧州大陸に上陸、以降はマーケット・ガーデン作戦やバルジ反攻等の主要な戦いに参加し、ドイツの降伏まで第一線に立って戦います。


終戦間際には、2FFY連隊が所属する第29機甲旅団は、英陸軍で唯一、新型「A34コメット巡航戦車」の運用を任され、コメットは2FFYを含む旅団の各戦車連隊に配備されます。

2FFY連隊にも新鋭のコメット戦車が配備されましたが、配備時期の関係でコメット戦車は華々しい戦火を残すことなく終戦を迎えています。


終戦後の軍縮により1FFYと2FFYはひとつになり、さらに1947年には装甲車部隊に改編、1956年に同じくスコットランドの戦車部隊であった「スコティッシュ騎馬連隊」(Scottish Horse)と統合されて「ファイフ&フォーファー義勇農騎兵/スコティッシュ騎馬連隊」(Fife & Forfar Yeomanry/Scottish Horse)となりますが、1975年の軍縮によりいったん連隊規模としては部隊は解散されました。


2014年、スコットランドと北アイルランドを基盤とするヨーマンリー部隊が統合再編され「スコティッシュ&北部アイリッシュ義勇農騎兵連隊」(Scottish and North Irish Yeomanry)が編成されます。

その際、ファイフ地方の町、クーパーに駐屯する「C中隊」(C Squadron)に「ファイフ&フォーファー義勇農騎兵/スコティッシュ騎馬連隊」(Fife & Forfar Yeomanry/Scottish Horse)の名称が冠され、1794年に編成された200年以上のFFYの伝統は、現在に受け継がれることになったのでした。

(シミター装甲車 これがFFYの現在の姿です)


…という、なかなか2FFY連隊も興味深い歴史を持っていますし、なにより、部隊のいるクーパーには行ったことがあります。

以前に旅行でスコットランドのウイスキー蒸留所巡りをした際、セント・アンドリュースに寄り道した後にレンタカーで迷って辿り着いたところがクーパーの町でした…。

…なんていう縁もあることに気付いたので、「これにしよう!」と決めた次第でアリマス。(いずれコメット戦車も作れば並べて飾れますしね。)


さて、部隊が決まりまして、部隊マーキングですが、あとは簡単です。

(まだ続きますよ・笑)


第2次大戦の欧州戦線で『第2ファイフ&フォーファー義勇農騎兵連隊』(2FFY=2nd Fife and Forfar Yeomanry)が所属していた「第11機甲師団」は、前部の泥除け(フェンダー)部や車体部に「黄色い四角地に黒い雄牛」のマークを部隊章にしています。

この黒牛が11機甲師団のマークです。

このデカールは“死ぬほど”あります(笑) この写真↓はほんの一部。


あとは、英陸軍のマーキングで有名な2桁や3桁の「部隊コード」のマーキングですが、いろいろ資料の写真を見ますと、2FFYの戦車や装甲車には「赤い四角に52」をつけています。

(写真は2FFYの52番をつけたコメット戦車)


この52という番号は、戦車旅団を構成する3つの戦車連隊のうち、2番目の連隊(中位連隊)を意味します。


これは、この資料本「WARPAINT Vol. 3(Colors and Markings of British Army Vehicle 1903-2003)に出ています。

ここでは、戦車旅団のうち、2番目の戦車連隊「Armd Regt 2」(アーマード・レジメントの2番目)として「Red地に52」とありますね。

この「52」のデカールも、死ぬほどあります(笑)

ちなみに、シニア連隊=上位連隊と呼ばれる1番目の戦車連隊が「51」、ジュニア連隊=下位連隊と呼ばれる3番目の戦車連隊は「53」です。

52番が付く中位連隊は、英語ではセカンド・シニア連隊と呼ばれます。


つまり、52がついているという事は、2FFYは第29機甲旅団の3つの戦車連隊のなかでの2番目の戦車連隊、セカンド・シニア連隊というわけです。(ちなみに、師団に所属しない独立戦車旅団の場合は、50番台ではなく122,123,124や、152、153、154など、3桁が使われることもあります。砲兵連隊だと70番台とか、この番号を見るとどういう種別、位置づけの連隊なのかを判別することができるのです。)


…なんてことを資料本を抱えてあれこれ再確認していくのも楽しい作業です。


(※資料によって、53を付けたコメット戦車の写真を「2FFYのコメット」だと解説するものがありますが、私が思うに、それは同じく第29機甲旅団に所属し、その下位連隊であった王立第3戦車連隊=3RTRの写真の間違いだと思うのですが…。ただし、終戦直前、旅団の連隊の入れ替えで、中位、下位が入れ替わった可能性も否定できず…。)



あとは、イギリス戦車でよく見ます、砲塔の ◇ 〇 △などのマーク。

これは、

菱型=本部中隊

三角=A中隊

四角=B中隊

丸 =C中隊 

を意味します。

欧州戦線でのM5スチュアート戦車は主力戦車ではありませんでしたから、各戦車連隊の(おそらく)本部中隊の偵察隊の車両として使われていたと思いますので(そうでなくても、そういう設定ということで…w)、となると砲塔マーキングは『◇』で決まりです。


デカールもちゃんとあります。

そして、この写真にある通り、この記号のマークには、赤とか青などの色分けがありまして、

赤=上位連隊

黄=中位連隊

青=下位連隊

白=その他(偵察連隊など師団直属の部隊)


…という色分けなので、第2FFY連隊は「52」番を付ける中位連隊、すなわち「黄色」です。黄色のダイヤモンドを付けます。


・・・ということで、この戦車のマーキングはだいたい決まりました。


早くデカール貼りたい!

けれども、その前に塗装しないと…w


さて、、、明日も在宅勤務です。。。

製作は週末までお預けですね。平日の夜に、こうやってホビーに浸り気持ちを整理し、頑張っております。。。ワルサーP88も早く続きに取り組みたいところですネ。



#戦車

#スチュアート

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T. S

I am a collector....

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    toysoldier

    2020/05/20

    毎度の事ながら鋭い考察恐れ入ります。
    必ずや素晴らしい作品なること間違い無しですね。楽しみにしてます。

    WARPAINT誌、大変気になりますね。
    本当に拘る方だけでなく、読み物としても面白そうです。

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      T. S

      2020/05/21

      コメントありがとうございますm(__)m
      頑張って完成を目指します。
      このWARPAINTという英軍車両の資料本はシリーズで4冊ありまして、英軍車両を作る人には必携です。
      今回は関係ないので触れてませんが、WW1から現代までの迷彩パターンやカラーリングなど、様々なことが載っていまして、素晴らしい資料本です。
      英語の勉強にもなりますよ(笑)

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    T. S

    2020/05/23

    塗装工程に入りました。
    まず下地、フラットブラックのスプレーで全体をブワーッと塗り、その上に、下の黒を残しつつ光沢のブリティッシュグリーンを再びブワーッと。
    この後どうするか、、、乾燥させながらじっくり考えましょう(笑)

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      T. S

      2020/05/23

      下地状態。
      ここから先はエアブラシですね。

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      T. S

      2020/05/31 - 編集済み

      セルフメモです。自分で忘れないうちに。
      最初は、コメット戦車のような深いブロンズ・グリーンて言うのでしょうか、このブリティッシュ・グリーンのような青みがかった深い緑を考えたのですが、、、待てよ?と思いまして。レンドリースでやってきた戦車は米国の工場で塗装まで済ませた米軍のOD色仕様だったはずですから…、と思って、以降の色目を変えました。
      そこで、タミヤのTS-28オリーブドラブのスプレーで上からかぶせまして、、、。
      結局、本車の基本塗装はエアブラシを使わずスプレーです。それでも結構いけるもんですね。

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    T. S

    2020/05/24

    本日は塗装工程が進捗しました。
    最後にクリアーもかけて、デカール貼りの態勢が整いました。

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    T. S

    2020/05/25

    デカール貼り工程まで行きましたが、(15)のブリッジ等級表示のデカールが無いので、、、どうしようかと迷っているところです。
    このあと、つや消しクリアでコートして、軽めの汚しを予定しています。

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      T. S

      2020/05/27

      ちなみに、ブリッジ等級表示は諦めました。
      プリンターで作ってみたのですが黄色がうまく発色せず、、、どうせヘッジローで見えないからいいや、と(笑)
      そしてもう一点、乗員を作ろうかとも思ってましたが、欲張ると完成しないのでキッパリと「やめた!」とw
      人間、時には割り切りが肝心です(´ー`)y-~

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      T. S

      2020/05/31

      2020.5.30現在、一応本体は出来上がりです。あと砲塔上のCal.30機関銃とアンテナを付けたら完成。

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    T. S

    2020/07/23

    ブリッジ等級表示ですが、同じくタミヤのM8自走榴弾砲のキットのデカールに入っていたのを見つけたのですが、残念ながら「16」でした。ほしかったのは15
    砲塔が違うと1トン多いんですね。

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