チボール産エメラルド(0.266ct、GIA:NONE & Inconclusive)

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国内ではAGL所属団体等が記載するエメラルドの処理の記載方法は、大まかには以下の3種類です。

①透明剤の含浸の痕跡は認められない
②通常、透明剤の含浸が行われている
③透明剤の含浸が行われている

ここで①を出す場合、FTIR検査といって、より高度な分析機器を用いる検査が必要です。なので、通常、エメラルドを鑑別に出した場合、鑑別書には②または③のコメントが入ります。

②、③の違いは、通常の検査過程で含浸の痕跡が分からなかった場合は②、含浸が明らかな場合は③です。ノンオイル以外、ほとんどの場合、③で出すのではないでしょうか。

国内に対し、GIAではエメラルドの分析レポートで、以下の分類のとおり記載を分けています。

①NONE
②NO INDICATIONS OF CLARITY ENHANCEMENT
③F1 "MINOR CLARITY ENHANCEMENT"
④F2 "MODERATE CLARITY ENHANCEMENT"
⑤F3 "SIGNIFICANT CLARITY ENHANCEMENT"

この内、無処理であるノンオイルは①または②で、含浸されている場合、含浸の程度によって③〜⑤のいずれかが記載されます。

私が高価なエメラルドを取り扱う店にて見てきた中で、一番よく見かけたのは③です。とても良い、濃い発色をしたコロンビア(恐らくムゾー産)のもので、マイナーオイルと謳われ販売されていた複数のピースのGIAレポートには③の表記がされていました。

では、①、②の差は何か。この表記は誤解を招きやすいですが、エメラルドは、どのようは場合であってもそのカッティングの際に研磨剤にオイルが用いられます。そのオイルが、石の表面のフラクチャー(キズのようなもの)から中に染み込んでしまったものを検査した場合、これは③〜と出ます。

②は補足説明に"No or insignificant clarity enhancement"と記載されています。直訳すると、"無処理または僅かな処理"、この"僅かな処理"が引っかかるところです。しかし、前述の通り、エメラルドはカッティングにおいて必ずオイルが用いられますので、「検出されてない僅かなオイルがあるかもね〜」程度の意味で捉えておくことがポイントと考えます。検出されていない僅かなオイル、これは表面に僅かでもフラクチャーが存在し、そこからオイルが検出されなかった、と理解しています。

では①は何か。これは表面にフラクチャーが存在しないエメラルドになります。「キズのないエメラルドは存在しない」と言われますが、本当にキズのないエメラルドについて、GIAではその証明が可能ということになります。表面にフラクチャーがないので、含浸しようがない。研磨剤にオイルが含まれようとも、内部に染み込みようがない、そんな「存在しない」はずのキズのない完全無欠のエメラルドです。意識して探さなければ見つけることは不可能です。

さらに、GIAを含む、産地同定サービスを実施する鑑別機関は、その手掛かりとして、成分、内包物等様々な要因を、自機関で所有する複数のサンプルストーンと比較して「この産地のものと一致するね〜」と意見を出します。産地同定は難しく、先駆けであるGübelinの検査が最も信頼されています。GIAも信頼性は高まりつつあるようですが、Sotheby's等の伝統的なオークションではGübelinやSSEF等の鑑別でないとダメと言われます(ダイヤモンド鑑定は除きます。)。

GIAでは産地が分からなかった場合、Geographic Origin欄の記載は"Inconclusive"、不明、となります。なぜ不明なのか、それは手掛かりとなる内包物が無い場合に、そういった記載になる事があるようです。

この石は、GIAで産地不明と出た、ノーインクルージョン、ノーフラクチャー(無傷)の、チボール産の石です。日独宝石研究所に提出したところ、鑑別書の拡大検査の項目欄に、内包物の記載が無く「成長線を認む」のみが記載されています。さらに日独宝石研究所では、サンプルストーンと成分で一致するものがあったのか、鑑別書にはコロンビア産と記載されました。その点、日独宝石研究所はGIAより優れていると感じます。

エメラルド自体珍しい石ではありませんが、「キズのないエメラルドは存在しない」と言われる中、このように鑑別されるエメラルドは、国内にどの程度あるでしょうか。

鉱物名:ベリル
宝石名:エメラルド(GIA "NONE" & "Inconclusive")
組成:Be3Al2Si6O18
重量:0.266ct
産地:Chivor Mine, Chivor Municipality, Boyacá Department, Colombia
鑑別:GIA、日独宝石研究所

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  • “None”表記なんて超貴重ですね!

    チボール産は青味がかっているとはよく言いますがまさに通説通りといった具合の色調ですね。
    光の当たり具合の所為もあるかもしれませんが、画像だけ見てパライバかと思ってしまいました。

    結局私のエメラルドは店主とバイヤーさん見解ではムゾー産とのことでしたけど、仮にそうだとして比較すると確かにチボール産は明度が高いように感じられますね。

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      shm

      2020/12/26

      あの石、ムゾーなのですか!エメラルドの評価点は、オイルの有無は愛好家的には加味されますが、やはり色ですよね!最近のムゾーは色薄いのが多いみたいですが、バタフライエフェクトの出るもの等、伝統的にムゾーのエメラルドが最高のものだと私は信じています。ですので、エメラルドの旅はまだ終わりそうにないです(笑)

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