62回目の日記 ビートルズ『ヘルプ(四人はアイドル)』オリジナルサウンドトラックCD
初版 2021/11/28 00:57
改訂 2021/11/29 02:30
0.「61回目の日記」補遺
前回のモノ日記ですが、それ以前で少し重い話題を扱い続けたので、言わば箸休めのようなつもりで認めたのですが、予想外の反応を戴きました。コレクションを構築する際に起こりがちのこのような事例はそのジャンルを超えて、コレクター共通の癖であったことが今更のように知らされ、コメントを戴けた館長の方々を始めとして、この日記を読んでくださった方々も含めて、より連帯感を深められたのではないかと、勝手に思い込んでいます。
1.入手した『HELP!』
先日、とある中古店のサントラコーナーを物色の際、標題のCDを見つけました。まあ、本来ならば「ビートルズのコーナー」に陳列されるべきところを、何かの拍子にサントラコーナーに納められたのでしょう。手に取ってみると、どうも私がすでに所有している『HELP!』のCD(イギリス盤公式オリジナル・アルバム)とは異なるものの様でしたので、その場でスマートフォンを用いて調べてみると、やはり別ものでした。何よりも「ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK」の表示もあり、「もしかしたら珍品?」なんてことも頭に過りながら、結局購入してしまったのですが、このアルバムそれ自体は特に珍しいものではなく、LPレコードでは内外を問わず幾度となく出版されたことは程なく分かりました。まあ、その件については後述。
(今回入手した『HELP!』)
(イギリス盤公式オリジナル・アルバム)
2.内容
(1) 概要
もともと『ヘルプ(四人はアイドル)』は、1965年8月にアメリカ合衆国で発売されたビートルズのアメリカでの9作目のアルバムで、米キャピトル・レコードによる編集盤です。純粋なサウンドトラック盤様に仕上げられた本作は、実際に映画で使用された楽曲のみが収録され、その他に映画で使用されたインストゥルメンタルの音楽が収められています。
(2) イギリス盤公式オリジナル・アルバムとの差異
インストゥルメンタルの音楽収録により、イギリス盤公式オリジナル・アルバム『4人はアイドル』の後半(LPレコードではB面)に収録された7曲、すなわち「アクト・ナチュラリー」「イッツ・オンリー・ラヴ」「ユー・ライク・ミー・トゥ・マッチ」「テル・ミー・ホワット・ユー・シー」「夢の人」「イエスタデイ」、そして「ディジー・ミス・リジー」は本作から除外されました。
(3) CD化
CD化はイギリス盤公式オリジナル・アルバムなどよりかなり遅く、アメリカでは2004年、日本国内では2006年6月28日にリリースされた『ザ・ビートルズ’65BOX』に収録された版が初出でした。1965年に米キャピトル・レコードによりイギリスとは違った編集/ジャケットで発表されたザ・ビートルズの4種のアルバム、『アーリー・ビートルズ』『ビートルズVI』『ヘルプ』『ラバー・ソウル』を収めたもので、ビートルズのアメリカでの成功をさらに確固なものとした作品群でした。
(『ザ・ビートルズ’65BOX』UNIVERSAL MUSIC JAPANホームページより)
その後、日本国内の事情がどうなのかはわかりませんが、少なくともアメリカではでは上記の4種のアルバムはそれぞれ単独で再発されたようです。
3.収録曲
1. 「ヘルプ!」(Help!)
2. 「ザ・ナイト・ビフォア」(The Night Before)
3. 「フロム・ミー・トゥ・ユー・ファンタジー」(From Me To You Fantasy)
4. 「悲しみはぶっとばせ」(You've Got To Hide Your Love Away)
5. 「アイ・ニード・ユー」(I Need You)
6. 「イン・ザ・チロル」(In The Tyrol)
7. 「アナザー・ガール」(Another Girl)
8. 「アナザー・ハード・デイズ・ナイト」(Another Hard Day's Night)
9. 「涙の乗車券(ティケット・トゥ・ライド)」(Ticket To Ride)
10. 「ザ・ビター・エンド / ユー・キャント・ドゥ・ザット」(The Bitter End /
You Can't Do That)
11. 「恋のアドバイス」(You're Going To Lose That Girl)
12. 「ザ・チェイス」(The Chase)
4.ここからが本題
ここまで表題のCDについて、ネットを利用して調べたことなどを認めました。もっとも、この程度のことはすでに承知している、というビートルズに造詣の深いミューゼオの館長の方も少なくないでしょう。中には、そもそもお前がビートルズについて語るなど不遜だ、という方もおられそうですので、そろそろ本題に入っていきたいと思います。
(1) インストゥルメンタルの曲
前項に掲げた本アルバム収録曲のうち、ビートルズのメンバーによるボーカル曲以外は全5曲で、いずれもインストゥルメンタル音楽であることはすでに申し上げました。各曲の作曲、編曲者をそれぞれ挙げると、
3. 「フロム・ミー・トゥ・ユー・ファンタジー」
:レノン=マッカートニー作曲、ケン・ソーン編曲
6. 「イン・ザ・チロル」
:ケン・ソーン作曲
8. 「アナザー・ハード・デイズ・ナイト」
:レノン=マッカートニー作曲、ケン・ソーン編曲
10. 「ザ・ビター・エンド / ユー・キャント・ドゥ・ザット」
:ケン・ソーン / レノン=マッカートニー作曲、ケン・ソーン編曲
12. 「ザ・チェイス」
:ケン・ソーン作曲
(2) ケン・ソーン(Ken Thorne)との出会い
前段の「各曲の作曲、編曲者」でビートルズのメンバー以外に登場したのが、ケン・ソーンなる作曲家で、実は今回このCDを購入するきっかけとなったのは、裏ジャケットにこの名前が表記されていたからでした。
私がこの名前を最初に見たのは、1981年の『スーパーマンII/冒険篇』公開時でした。御存じの方も多いと思いますが、前作である『スーパーマン』第1作の音楽担当はジョン・ウィリアムズであり、そのサウンドトラックはウィリアムズの代表作の一つでもある名作でした。その続編ですから、前年に公開された『スターウォーズ/帝国の逆襲』のサウンドトラック同様に充実の出来栄えの作品を聴くことができるのかと思いきや、音楽担当者としてウィリアムズの他にケン・ソーンの名前も併記してありました。どういう人物かも知らず、とりあえずウィリアムズの音楽が聴けるのか、という心持で『スーパーマンII/冒険篇』を観たのですが、背景に流れる音楽はアレンジしてあるものの、聴いたことがあるようなメロディばかり、要するにケン・ソーンの役割は編曲だったわけです。
次にその名前を見たのは、さらに続編の『スーパーマンIII/電子の要塞』の時ですが、今度はウィリアムズではなくジョルジオ・モロダーとの連名で、実際の音楽もモロダーの個性が目立って散見されるものであり、どうもケン・ソーンがいかなる作風の作曲家なのかがよくわかりませんでした。
(3) ケン・ソーンのディスコグラフィーを眺めると
とにもかくにも、久々にこの名前を見ましたので、改めてディスコグラフィーを検索してみました。それで、レコード、CDともにそれなりにケン・ソーンの担当した映画のサウンドトラック盤が出版されていたみたいなのですが、どうも私自身とは縁が薄かったようで殆ど手元にはありません。スーパーマンシリーズ作品以外に所有していたのは『ローマで起こった奇妙な出来事』のCDですが、これとて基本的にはスティーブン・ソンドハイムの作品という認識であったので、今回のことで改めてこのCDを引っ張り出して確認すると、確かにジャケットにKen Thorneとありました。このCD、入手した約20年前に数度聴いたきりで、その時の印象も「全編ソンドハイムの作品だろう」という先入観がありましたので、ケン・ソーンの音楽がどんなものだろうという思いは巡りませんでした。
(4) リチャード・レスター監督
これも私より優秀な映画音楽ファンならば当然ご存じのことだったのでしょうが、今回私が認識できたことの一つにあったのがリチャード・レスター監督との関係です。彼の初の長編映画『It's Trad, Dad!』(1962)は、様々なディキシーランドジャズバンドやロックンロール歌手によるパフォーマンスをフィーチャーしたイギリスのミュージカルコメディー作品でしたが、その付随音楽を担当したのがケン・ソーンでした。
その後、『ヘルプ(四人はアイドル)』(1965)、『ローマで起った奇妙な出来事』(1966)、『ジョン・レノンの僕の戦争』(1967)、『ジャガーノート』(1974)、『スーパーマンII/冒険篇』(1980)、『スーパーマンIII/電子の要塞』(1983)など多数のリチャード・レスター監督作品の音楽を担当しましたので、それなりに気の合った名コンビだったと言えるでしょう。
(5) 実際に聴いてみて
ずいぶん前置きが長くなりましたが、標題のCDに収録の『イン・ザ・チロル』と『ザ・チェイス』、さらには前出の『ローマで起った奇妙な出来事』のCDのインストゥルメンタル部を久し振りに聴いてみました。そして、ケン・ソーンの非凡さに少なからず驚かされました。正直言って、名前は知っていたのに、40年間もそれほど注目しなかった自らの行動と眼力のなさを悔いる思いでした。ということで、泥縄ではありますが、これからはケン・ソーンの音楽にも注目していこうと思い立ちました。でも、なかなかレコードやCDは入手しにくいだろうなあ。とにかく、もうあまり「気長に」とも言えない年齢になってきましたので、少し頑張ってみますか。
5.最後に
本文を作成している最中に、ミュージカル『ローマで起った奇妙な出来事』の作者であるスティーブン・ソンドハイムの訃報が伝えられました。享年91。ミュージカル作品は映画化されたもの以外は基本的には注目していないので、ソンドハイムの音楽とはそれほど縁はなかったのですが、何と言っても『ウエストサイド物語』の作詞という偉業がありますので、それなりに気になる存在でした。御冥福をお祈りします。
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利右衛門
2021/11/28 - 編集済み件の「HELP!」のサントラについては勿論存じておりましたが、
そこから編曲者さんへ飛び、映画サントラの括りとしての考察や、リチャード・レスター監督にきちんと至る所は、流石woodsteinさんです!
我々にはなかなか出来ない映画好きな視点からの文章、とても楽しませて頂きました。
勉強になります!ありがとう〜🤗✨
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woodstein
2021/11/29利右衛門さん、コメント有難うございます。まずは私に対して過分なお言葉を戴き、恐縮しています。
ということで、まず『ヘルプ(四人はアイドル)』のサントラ盤については、やはりビートルズに造詣の深い方々にとっては常識的なことでしたね。ただ、こういうことでもなければ、サントラ以外の分野の知見は広がらないので、私にとってもいいきっかけでした。きっかけというならば、これを機会にケン・ソーンの名を頭の片隅にでも入れて頂ければ、と思います。
あと、リチャード・レスターへの言及もありましたが、御存じのとおり監督としてのキャリアの初期に『ビートルズがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!』と『 ヘルプ!4人はアイドル』を撮り、これらはプロモーション・ビデオの先駆けであった、という評価もあるようです。その片鱗は、後に撮影した映画の映像表現にも垣間見えることはあるのですが、それはその作品に触れる機会があれば語ってみたいと思います。
そんなリチャード・レスター監督のおそらく最後のキャリアとなるであろう劇場公開作が『ゲット・バック』(1991)というドキュメンタリー映画で、言うまでもないですが最近ディズニープラスで配信されたピーター・ジャクソン監督編集の同名作とは別物です。リチャード・レスター監督の『ゲット・バック』はポール・マッカートニーが1989年におよそ10年ぶりに行ったワールド・ライブ・ツアーの模様を中心に収めた作品で、ある事故から劇場用作品を撮ることを断念したリチャード・レスターがおそらくは自らのキャリアの礎となったビートルズを今一度題材にした、若しくはできたのは偶然だったのかもしれません。ですが、ビートルズという括りを外しても「秀作」と断言できる一つのドキュメンタリー・フィルムで、ビートルズ、マッカートニーのファンならずとも一見の価値ありの映画でした。もっとも、『ゲット・バック』のことも御存じでしたでしょうから、釈迦に説法となってしまいましたが、個人的に思い入れのある作品でもありましたので、ちょっとだけ深入りしました。
ということで、リチャード・レスター監督作品にはモノ日記本文やこのコメント返しで掲げた作品以外にも、様々な角度から触れてみたい作品はいくつもありますが、果たして実現できるかどうか…。
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