壁/安部公房

0

新潮文庫

安部 公房 (1924年3月7日 - 1993年1月22日) は、小説家、劇作家、演出家。高校時代からリルケとハイデッガーに傾倒していましたが、戦後の復興期にさまざまな芸術運動に積極的に参加し、ルポルタージュの方法を身につけるなど作品の幅を広げ、三島由紀夫らとともに第二次戦後派の作家とされました。作品は海外でも高く評価され、世界30数か国で翻訳出版されています。
主要作品は、小説に『壁 - S・カルマ氏の犯罪』 (芥川賞受賞)、『砂の女』 (読売文学賞受賞)、『他人の顔』、『燃えつきた地図』、『箱男』、『密会』など、戯曲に『友達』、『榎本武揚』、『棒になった男』、『幽霊はここにいる』などがあります。演劇集団「安部公房スタジオ」を立ちあげて俳優の養成にとりくみ、自身の演出による舞台でも国際的な評価を受けました。晩年はノーベル文学賞の有力候補と目されました。

『壁』は、1951年に刊行された「S・カルマ氏の犯罪」「バベルの塔の狸」「赤い繭」(「洪水」「魔法のチョーク」「事業」)の3部(6編)からなるオムニバス形式の中編・短編集。表題作でもある「壁―S・カルマ氏の犯罪」は最初の前衛的代表作で、第25回芥川賞を受賞しました。ある朝突然、「名前」に逃げ去られた男が現実での存在権を失い、他者から犯罪者か狂人扱いされ、裁判までもが始まってしまい、ありとあらゆる罪を着せられてしまう。彼の眼に映る現実が奇怪な不条理に変貌し、やがて自身も無機物の壁に変身する物語で、帰属する場所を失くした孤独な人間の実存的体験と、成長する固い壁に閉ざされる空虚な世界と自我の内部が、独特の寓意や叙事詩的な軽さで表現されています。
埴谷雄高は、『壁』の書評で、安部が自分の後継者であるばかりか、自分を超えたと述べています。

Default