エリック・クラプトンはダンディー? ~ ホールカットダービー「254」
初版 2023/01/17 21:45
改訂 2024/05/01 22:29
皆さんは「コーディングス」というブランドをご存知でしょうか。John Charles Cording が 1839 年にロンドンの 231 The Strand にコート、レインコートの 製造販売のお店をオープンしたのがコーディングスの始まりです。ロンドン・パビリオン、クライテリオン・シアターを始めとして、劇場や商店が密集しているロンドンのウエストエンド、ピカデリーサーカスから程近い場所に Cordingsの店舗はあります。エリック・クラプトンがここの商品が大好きで、一時オーナーになっていたことでも知られています。
これがそのピカデリーサーカスの店舗です。立派な建物ですね。
このコーディングスというブランドが、靴に関してどのような展開をしていたのか私は全く知りませんが、ここの靴を10年程前に入手しました。それが下の靴です。
70年前後の製作と思われる旧グリーン製です。グリーンでは254と言われるホールカットダービーです。フルスティックさんの時代になって「DANDY」というペットネームが付けられました。エリック・コバの張った靴なのにこの角度からは意外にスマートに見えます。アイテムのところにも書きましたが、この靴はVELDTSCHOEN製法で作られており、防水性の高いマーチン社の『ZUGレザー』が使われています。エリック・クラプトンもこの靴を履いたでしょうか。
キャップトゥの体裁を取っていますが、画像でお分かりの通り「ステッチだけのブラインドキャップ」で、両サイドのパーツ以外一枚革のホールカットシューズになっています。
横から見ると割と「シュッとした靴」のようですが‥‥。
上から見ると「ゾウリムシ」のようなシルエット(笑)。鳩目がこの靴には似合います。
27というラストですが、爪先はまん丸でコッペパンのようです。
ホールカットの繋ぎ目のヒール部分。ぐるり一周した革をヒール部分で頑丈に留めています。かなりユニークな後ろ姿。
VELDTSCHOEN製法のコバ部分の処理がよく分かるアップ画像です。
ここで何だかよく分からない「VELDTSCHOEN製法」について少々ご説明をします。
上は1915年の「LOTUS AND DELTA NEWS」に掲載された、ロータス社のVELDTSCHOEN製法に関する広告です。この製法はアッパーの革を内側に折り込まず、コバ部分まで革を伸ばしてそのまま出し縫いに掛ける訳ですね。ですからコバには隙間が全く生じず、水がインナーに入りづらいことになるわけです。
私の靴はこのウェルトのあるVELDTSCHOEN製法のようです。
断面を俯瞰するとこんなふうになるという図ですね。
図のように一般的なウェルト靴は隙間がどうしても生じてしまいます。だから水には強くありません。
ハーフミッドソール部分を拡大しました。前方のソールが厚くなっています。
ライニング前半部はリネン製。通気性を良くするためだと思います。
タン部分は両側がアッパーに縫い付けられており(シャノンと同じ仕様)、羽根部分から小石、土が入るのをブロックしています。
住所はピカデリーになっていますね。コーディングスは総合衣料の会社ですから、靴だけを売っていたわけではありません。しかし、ここでは「BESPOKE SHOEMAKERS(なぜ複数形?)」と銘打っています。
購入直後に撮影したソール画像です。ヒールはU字型一列の釘打ちで、ヒールトップは黒く塗られています。この靴の印象ですが、とても歩きやすいです。重い靴ですが、ソールはある程度のしなりがあって長時間歩いても疲れません。ちなみに少々の雨なら全く水は通さず、足はいつも快適です。
腰裏の手書き文字。一番上の「2」という数字の意味は未だ謎です。
1960年のグリーンのカタログです。上がこの254の説明です。この靴はBLACK ZUGですから254Bであり、27ラストになっています。下のブーツはガルウェイGALWAYと言われるブーツで、これも同じ革と製法で作られています。
https://muuseo.com/shinshin3/items/482