マルティカはどこへ行ったの?
初版 2018/03/18 11:12
改訂 2022/12/20 13:53
こんにちは、あゆとみです。
https://muuseo.com/56688588/collection_rooms/32
あれ、あの人はどうなったんだろう?
キャロル・キングのタペストリーのアルバムジャケット↑をみて、ふと思い出した人がいる。このアルバムに収録されている I Feel the Earth Moveをカバーしたあの彼女だ。
みなさんはマルティカを覚えているだろうか?
1988年にデビューアルバムをリリース。そのとびきりキュートなルックスとパンチのきいたボーカル、華麗なパフオーマンスで人気を博し、一躍ポップチャートの常連になった歌姫のことを。
当時の彼女の人気はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、出すシングルがどれもヒットチャートを駆け上がった。
中でもトイソルジャーはビルボードの1位に2週連続で留まる快挙を達成。アルバムはゴールドディスクになり、世界中で3000万枚を売り上げたほどだ。
トイソルジャーは女性ポップスターによくありがちな恋愛ソングではなく、コカイン中毒にハマったマルティカ自身の友達について描かれたシリアスな内容であり、当時かなり斬新だった。
少し歌詞を紹介しよう。(ざっくり訳付き)
無邪気な子供の声で、ドラッグからの誘惑をほのめかしたり、
Won't you come out and play with me?
おいでよ。一緒に遊ばない?
いつの間にか自制を失い、完全に中毒になってしまった人達の状態を、自分で考えることも、倒れても自分で立ち上がることができないおもちゃの兵隊に例えたり、
We All Fall Down
Like Toy Soldiers
みんな倒れてく
おもちゃの兵隊みたいに。
シンプルだが心に残る内容になっている。
https://www.youtube.com/watch?v=LvdLovAaYzM
当時、彼女は日本でもかなりの人気だった。
トイソルジャーの日本語カバー曲が収録されたミニアルバムまでリリースされたくらいだ。(内容は全く別物になっているが^^;)
https://www.youtube.com/watch?v=BuESt-xdsfg
黒髪にブラウンアイズの親しみやすいルックスも受け入れやすかったのかもしれない。聴いてよし、見ても良しのスター性溢れる彼女は当然、音楽雑誌にもこれでもかと取り上げられていた。
中にはマドンナと比較して、「マルティカのダンスの方がパンチがあって好きだ」とか「今からはマルティカの時代だ」とかいう記事も見かけるくらいだった。
マドンナは当時からポップス界のラスボスだったので、彼女と比較される人というのは、その時々でものすごく人気があるスターだと思って間違いない。
さて1991年に彼女は2枚目のアルバムMartika's Kitchenをリリースする。
大ヒットした前作を受けて、当時のラジオでも「トイソルジャーのあの彼女が帰って来たよ!今度はなんとあのPrinceとタッグ組んでるよ!」という感じで賑やかに紹介されていたものだ。
https://www.youtube.com/watch?v=TiI066KiKy8
だが、このアルバム以降、彼女について耳にすることはなくなり、長い間彼女のことを思い出すこともなかった。
それが今回、キャロル・キングのアルバムジャケットを目にして不意に蘇ってきたわけだ。そもそもキャロル・キングの存在を知ったのはマルティカのカバーがきっかけだったからである。
エンタメ界には一発屋と言われる人達は常にいるわけで、何を今更のように不思議がっているのかと言われるのかもしれないが、マルティカには一発屋と言われる人たちによく感じられる移ろいやすさとか危うさというのもが全くなかった。普遍的な魅力に富み、スター性に溢れ、しばらく表舞台に居続けられるだろうと思わせるような妙な安定感もあった。当時はアメリカ国内でもいずれはマドンナレベルになれる大器だと言われていたほどなのだ。だからこそ謎だった。
一体、あの後彼女に何がおこったのか?
この件について日米のウィキペディアではそれぞれだいぶニュアンスの違う二つの説がのっている。日本版ではセカンドアルバムの不振が原因で表舞台から姿を消したと書かれており、アメリカ版には名声の重みに耐えきれず自分でミュージック・ビジネス界から立ち去った、とある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/マルティカ
https://en.wikipedia.org/wiki/Martika
マルティカのセカンドアルバムは一作目と比べると確かに売れなかった。ビルボードでは93位が最高位だったし(前作は15位)、トップ10入りしたシングルはLove Thy Will Be Doneの一枚だけ。とはいえ、このアルバム、アメリカ国外では大ヒットを記録した。特にオーストラリアではシングル1位、アルバムは9位になった。イギリスでも売れた。
プリンスと共作したこの曲は彼女の作品で私的に一番好きな曲でもある。
https://www.youtube.com/watch?v=10V_Z0_udjg
国内で振るわずとも、海外ツアーへの興収を見込んで、次作のオファーがあっても全然おかしくないくらい2枚目も売れたということだ。
だとすると、「2作目が売れず姿を消した」と結論づけるのには無理がある気がしてくる。
「自発的に辞めた」という方がしっくりくるのだ。
その後読んだ色々な記事をまとめると、どうやら「自分でやめた」のは事実であるらしい。
するとさらなる疑問も浮かんでくる。
なにせこの彼女、幼い頃から「私はスーパースターになるってわかってた」と言い切ったり、アポなしでエージェントにアピールしに行くくらいの自信と野心があった人だ。
そんな彼女がなぜ自分でやめたのか?
そんな疑問に最近彼女が自分で答えている動画を見つけた。2016年3月にオーストラリアのテレビ出演時のインタビューだ。
https://www.youtube.com/watch?v=nHnlCxeVDAo
その一部をざっくりとした意訳とともに紹介したい。
インタビュアー:知らない人も多いと思いますけど、あなたは22歳の若さでミュージック・ビジネスから離れました。何がきっかけで辞めたんですか?
マルティカ:若かったんでしょうね。若い頃って、バカやっちゃうでしょ?あまりに若くて、燃え尽きちゃっていうのかな。圧倒されたっていうか、パニクっちゃって。何もかにもがどっと早く来すぎちゃったんだと思う。あんな巨大な舞台で世界に発信して、若者の見本にならなきゃいけないみたいな責任感とかそういうの、背負えないって思ったのよね。私には出来ないって。
13歳でアニーの脇役でデビューして以来、徐々に子役として人気を博し、19歳の時に出したファースト・アルバムが世界的に大ヒット。憧れていたスターの地位を手に入れた裏には色々な心の葛藤があったようだ。
マルティカ:休憩が必要だった、それだけなのよ!数ヶ月休んで、それでまたレコード作ればよかったわ。ただ当時は、人生の他のことで気が散ってる間に・・・時間がすぎちゃったのよね。」
この発言からは、過ぎ去ったキャリアのチャンスを惜しむ気持ちが滲んでみえる。
実際、表舞台から姿を消した長い年月の間にマルティカは幾度かカムバックしようと試みた。ミュージシャンの夫と一緒にバンドを組んでアルバムをリリースしたり、別名で活動したこともある。だがどれもヒットしなかった。
1992年、人気と名声があるうちにミュージック・ビジネスの世界に背を向けた彼女に、仕事の運はなかなか巡ってこなかったようだ。
だが、12年後の2004年、意外なところから再び運が巡ってきた。
エミネムが彼女のトイソルジャーをサンプリングした曲をリリースしたのだ。その名も ライク・トイ・ソルジャー。
https://www.youtube.com/watch?v=lexLAjh8fPA
この曲は世界中で大ヒットし、再びマルティカに脚光があたり、多大な印税を彼女にもたらしたのだそうだ。
当時のマルティカは彼女のことを知らない若い世代から「エミネムの曲で歌えるなんてすごいクールだね!」なんて言われることもあったらしい。
同時期に世間で80年代カルチャーは再び人気になったり、故プリンスが前述のLove Thy Will Be Doneをライブで演奏したりと、彼女にいい風がどんどん吹いてきた。
これを受けて彼女は再び芸名をマルティカに戻して新曲を出すのだが、こちらは不発に終わったようだ。
現在は18年間のパートナーである夫と穏やかに暮らしているらしい。
1992年、彼女があのままスター街道に乗っていたら地位と名誉は確保できていたかもしれない。
でもどこかに辞めたい気持ちを抱えたまま突っ走っても、スターによくある空虚感や孤独に心が蝕まれていったかもしれない。実際、大勢の人に愛されながらも、とてつもなく孤独な死に方をするスターは後を絶たない。
一方でスターの地位を自分で捨てたマルティカは、キャリアという面では後悔があったかもしれないが、一生のパートナーに出会え、過去に書いた曲からくる印税で生活もできている。
何をもって幸せとするかは人それぞれ。
https://muuseo.com/toysoldiers
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