本:小学館入門百科シリーズ9「プロレス入門」
初版 2022/11/20 18:31
改訂 2022/12/16 00:41
監修者:菊池孝、ジャイアント馬場
出版社:小学館
発行日:昭和52年9月30日 第11刷(昭和46年3月10日 初版第1刷)
大きさ:縦19.6cm 横15.6cm
アントニオ猪木さんの訃報でこの本を思い出し、棚の奥から引っ張り出しました。
プロレスが好きなのかと思われそうですが、すこし違うんです。
私は、プロレスよりもこの「小学館入門百科シリーズ」という本が好きで、いまから二十年くらい前に古本屋でこれを購入しました。
この本の発行当時、たまにぼんやりテレビの中継を観たり、ミル・マスカラスのテーマソング「スカイ・ハイ」のレコードを買ったりはしましたが、毎週中継を楽しみにしたり試合を観に行ったりするほどプロレスに興味があったわけではなかった。
そのままの調子で現在まで至っており、プロレスがことのほか好きだということではないのです。
「小学館入門百科シリーズ」は、おおよそ十歳くらいの人が夢中になることに、力添えしてくれる本です。
野球や水泳などのスポーツ、つりや手品などの趣味、当時流行していた探偵や怪獣のことなど、多くのテーマを扱っていました。
話はアントニオ猪木さんのこととは違いますが、この本について書いてみます。
注目するのは本そのもののことだけにして、内容の具体的なことには触れません。
紙面には時代らしさがぎっしり詰まっていて、とても興味深いのですが、プロレスにうとい私には確認や判断が難しくて。ごめんなさい。
◇
「プロレス入門」の内容は、こうです。
第一章 ジャイアント馬場7つの秘密
第二章 ものしりコーナー
第三章 きょうふの殺人ワザ
第四章 反則ワザを知ろう
第五章 プロレスラーの特訓
第六章 びっくりレスラー
第七章 プロレス・ナンバー・1
第八章 歴史にのこる強ごうたち
ジャイアント馬場さんをプロレスを代表する人気者として取り上げて、その後は、プロレスの知識、プロレスの技術と訓練法、レスラーの紹介、となっています。
でも、なにか足りないような気もする。
スポーツの入門書なのに、ルールの説明をする段落が見当たらないでは。
探してみると、八章の後、最後のほうに六ページだけ「試合の進めかたとルール」がありました。
思えばプロレスは、野球やサッカーなど空き地で大勢で遊ぶようなスポーツとは違った、危険で身近とはいえないスポーツです。
レスラーはスポーツの選手というよりも遠い憧れの存在であり、ルールよりも知識を重点にわかりやすく楽しく読めるようにしている、のかもしれません。
一つのテーマに絞って書かれた専門的な本は、その界隈での特殊な話題や言葉遣いが当たり前になっていて、しばしば初心者には読みにくいことがあるもの。
しかしこの本は、そういうことはありません。
専門的な言葉はなるべく使わず、私感を交えず、論理的に冷静に説明していて、言葉遣いが丁寧なこともあり、優しくてさっぱりした印象が残る。
これは「プロレス入門」だけでなく「小学館入門百科シリーズ」に共通しているもので、制作者が持つ、小さな人に対する“教え示すこと”の姿勢なのでしょうね。
すべての文章に写真や挿画が付き、理解を助けるようになっているのも特徴で、この挿画にまた魅力があるんです。
挿画にもいろんな種類があるものですが、この本では、画家が描く写実的な画と、マンガ家が描く図解や小さな漫画が目立っています。
前者の意味は、一目でレスラーの容姿や技の形がわかるようにすること。
写真を使えば良さそうなところですが、色数が少ない印刷では影が濃くなったりして見づらくなるし、また、文章の内容に適した写真がなくて挿画にすることもあると思います。
この本で描いているのは、石原豪人先生、柳柊二先生、南村喬之先生、林朝路先生。
あくまで写実なのだけれども、繊細で劇的だったり、どこか物寂しい感じがあったり、雰囲気が柔らかく優しく思えたり、といったことを感じ取れる。
歌舞伎の見得にも近い、画家の創り出した魅せる絵でもあるんですね。これも写真にはない魅力です。
後者の意味は、わかりやすく場面や関係を描くこと、空間に親しみやすさを加えること。
本書では担当の一人として、「光速エスパー」「発明ソン太」「まんが教室」「日本のひみつ探検」の、浅野りじ先生が描いておられます。
浅野りじ先生は、様々な絵柄を描き分けられる方なのですが、ここでは写実ではないが誇張もしすぎない、優しく落ち着いたデフォルメで描いています。
迫力ある挿画と丁寧な言葉が紙面を占める中、漫画がちょこんとでもあると、紙面全体の緊張感がほぐれますね。
これらのような記事は、私の子供時分には、仮面ライダーなどのヒーローや芸能人の紹介記事など児童雑誌でよく見られ、私はそれを繰り返し目にして楽しんだものでした。
考えると、私の“楽しさ”のいくつかは、子供の頃にこれら「小学館入門百科シリーズ」や児童雑誌を読んだ経験から育まれたものかもしれません。
たまに「プロレス入門」を開くと、いまでもわくわくして時間を忘れてしまうことがある。
読むというよりも、紙面の画や文に浸ってしまいます。
◇
この本を久しぶりに目にして、プロレスはなにかわからないスポーツだなと思いました。
「試合の進めかたとルール」によると、相手の両肩をマットに三秒間フォールすれば勝ちになる。
攻撃の方法は、使っていい技をいちいち決めているわけではなく、代わりに目をつくなどのしてはいけない反則がある。
その他にも多くの決まりごとがありますが、格闘をするうえでの規則はこれらに絞られるかと。
そこまではいいです。わかります。
でも、反則技が「五秒以内なら反則にはなりません」というのがわからない。
過去にテレビでプロレスを観ていても、反則を許さないことにしてすっきり勝敗を決めればいいじゃないか、などと思ったものでした。
なんで反則を少しだけ認めるルールがあるのか不思議なのですが、この本はそこには言及していない。
それどころか「反則ワザを知ろう」という章すら設け、技術として紹介している。
これはどういうことなんだ。
考えたんですが、プロレスの一番の見どころは肉体のぶつかりあいであって、反則をすることや、もしかしたら勝敗すら二の次だったんじゃないか。
テレビではわかりにくいけれども、実際に試合を観に行けば、人間と人間のぶつかりあう姿を目の前で観ることになる。その魅力はとても大きなもののような気がします。
スポーツがルールによって、相撲は体が大きいほうがいいとかバスケットボールは背が高いほうがいいとか、人間の体型すら決めていくような中で、プロレスはルールに空きがあることにより、さまざまな体型のレスラーや特技のあるレスラーが活躍できているのかもしれない。
基準のルールはあるけれども、少しの反則を許すことで、様々なレスラーのぶつかりあいが存分に観られるようになる。プロレスにはそのことが求められているのではないか。
本当のところはわかりませんが、私には、プロレスは競技というよりもぶつかりあいなのだと思えば、しっくり納得できるものがありました。
「反則ワザ」というよりも、そのレスラー独特の“得意技”であり、五秒間だけレフェリーが許す範囲で攻撃してもいいようにしているのだろうと。
この本の発行当時、おそらくレスラーは子供にとっても大人にとっても遠い存在であって、プロレスというものは、超人どうしが戦いあう場だったのだと思います。
インターネットで世界の情報が調べられるいま現在、この本が紹介している「火を吹く怪人」「ミイラ男」といった幻想と現実の中間にいるようなレスラーは、今でも活躍しているのでしょうか。
もしかして当時でも本当だと思っている人はいなかったのかもしれませんけれども、レスラーの肉体と技の存在がそれが本当かなどどうでもよくして、現実のものとして見せつけるものがあったんじゃないかな。
CRASH AND BURN 場外劇場
2022/12/08 - 編集済みプロレスは他のスポーツと決定的に違うのは「見せるためのスポーツに特化」してる事でしょう。
ブックと呼ばれる試合の勝敗が予め決められてるのは有名ですが、これはそうしないと危ないからです。つまり勝敗を競うのではなくいかに技をかけるか&喰らうか、そしてその中でどこまで我慢して観客が見たいものを見せるかが本領なのです。
ショービジネスなのでお芝居と捉えられる場合もありますが喰らう技は本物! まさに命懸け。変な話ですがフィギュアスケートの格闘版と考えると分かり易いかと思います。
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maruyama
2022/12/12プロレスは、勝敗よりも技を見せるものなのですね。
技を見せるには受ける相手が必要である。技は真剣でなければならないため、受ける側に対しての安全の考慮も必要になる。そのためのブックである。
技術やタイミング、美しさなどが要求されているスポーツであり、フィギュアスケートに近いところがある、と理解しました。
勝敗が決められていることは初耳で驚きましたが、それも安全を優先することを思うと納得です。
私はプロレスをよくわかっていなくて、この記事も想像を膨らませて書いたので、コメントをいただけて理解が深まりました。ありがとうございます。
スポーツといってもいろいろあるんだなと思うとともに、私には、競技で一番を決めるものよりも、人それぞれの魅力が発揮出来そうなプロレスやフィギュアスケートのようなスポーツのほうがしっくりできる気がしました。
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CRASH AND BURN 場外劇場
2022/12/12 - 編集済み体重百数十キロのレスラーのコーナーポストからのボディプレスなんか覚悟を決めて受けなきゃいけないし
受け止めないと相手が危ないんですよね。
なので負け側はいかに勝ち側のレスラーの技と持ち味をどこまで引き出せるか、一方で負ける方もただでは負けない。
どこまで食い下がって自分を立てるかという意地の張り合いの我慢大会なんですね。
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maruyama
2022/12/14巨体が高所から勢いをつけて落ちる場面を想像するだけでも、ひとつ間違えると大変なことになりそうです。
たまにプロレスをテレビで見て、ぼんやりすごいなあと思ってはいましたが、そのすごさを感じさせてくれるために様々なことがあるのですね。
そして、勝つ/負ける、または技をかける/受けるという役割が決まっている中で、そのレスラーはどうするか、というところも見どころなのかと。
表面ではただ勝敗を競っているかに見えて、奥深くには駆け引きのようなものがあることに、なにか、決まりの中で自分の技術を出す職人の姿が思い浮かびました。
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CRASH AND BURN 場外劇場
2022/12/14 - 編集済みそこが楽しいんですよ、レスラーに人生を感じるファンが多い浪花節の世界ですね。
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maruyama
2022/12/16わかる気がします。分野は違いますが、絵を観て人を感じることに近いのかもと思いました。興味深いです。
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