本:杉浦茂ワンダーランド2「ドロンちび丸」
初版 2022/05/01 13:10
著者 :杉浦茂
出版社:ペップ出版
発行日:1987年11月30日 第一刷
大きさ:B6判
仙人に忍術をおそわったちび丸が、兄弟弟子のほしいも小僧、がまぐちぼうやとともに、お城の試合に出たり事件を解決したり。
忍術、活劇、冒険、勧善懲悪と、楽しさにあふれたマンガです。
昭和三十年から三十二年にかけて、雑誌「幼年ブック」に描かれたものを、編集したとある。
杉浦茂先生は、「のらくろ」の田河水泡先生に師事し、昭和の初めから活躍されていた方です。
1987年当時に本屋で目に入り、買ってみたら大当たり。思いもしなかった世界を経験する面白さと驚きがありました。
まず会話。
町人もとのさまも仙人もわるものも動物も、皆がのんびりと似た調子でやりとりしあう。コマの隅で、たこやかえるが置いてくる一言もいい。
こんなに舞台が朗らかなのは、もちろんまだ幼い人に向けて描いているからですが、しかしこの雰囲気は、杉浦茂先生の作品に共通したものでもあります。
マンガの登場人物が役を演じているというよりも、杉浦茂先生の語るおはなしの中で人物が活躍しているような、マンガの最初から最後まで、先生自身のことばがある気がします。
次に、ひょっこり出てくるびっくり物体。
なんだかわからないけど面白いものが、突然現れてはすぐどこかに消えるのが、すごくおかしい。頭がかき混ぜられるし、こんなのやあんなのがいるのが楽しい。
その後でよく考えてみると、物語の中でこんなにどんなものでも描けるってすごいことなんじゃないのか、と思えてきます。
余談ですが、1969年発行の虫コミックス版「猿飛佐助」では、この表現がさらに進んでいて、急に絵の中に迷い込むようなことになります。杉浦茂先生のたどりついたマンガ表現だと思いました。
次々に起こる事件と、どんどん出てくる不思議な人物たち。
物語の枠に囚われない発想と内面の描写。
物語全体の筋よりもその場のやりとりが楽しく、どのページを開いても面白い。
など。
杉浦茂先生のマンガは、落語か講談か紙芝居か、一人で語る芸に近いところがある気がします。
その心地よい調子の中で、すうっと突然生々しい混沌へと連れて行かれたりして、いやいや。かないません。
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