十九世紀後期のダストカヴァー
初版 2018/08/19 20:12
改訂 2018/08/19 20:32
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昨日、埋もれている資料を発掘していたら、暫く目にしていなかった(覧たいのに所在が知れなかった)本が何冊かまとまって出てきた。この本もそのうちのひとつ。
十九世紀の終わり近く、明治中期に出された地理学の教科書。これにダストカヴァーがかかっていたのは失念していた。
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☝秦政治郎『中等教育萬國地誌』(明治24年再版 博文館)
ということで、明治二十年代にはすでにダストカヴァーをかけているものがあった。この頃に洋装本がどっと作られ、和装本に取って代わる勢いをみせるようになったらしいので、ダストカヴァーが登場したのもその辺りかもしれない(因みに、版元の博文館は明治二十年創業。教科書の発行元が四十二年に日本書籍・東京書籍・大阪書籍の三社限定となったが、それに先立ち三十八年に元卸としての共同販売所を東京に設置、各道府県ごとにその支所または特約販売所を一箇所づつ置くことになったが、博文館社主・大橋新太郎が主宰する日本書籍が三十七年に各地へ特約大販売所・特約販売所・取次販売所を設けていたため、同社が教科書流通の九割方を占めることになった。二十年代後半に先細りとなるまで、量産の難しい整版による木版刷り和装本の教科書は各地方の業者により翻刻出版されて需要を充たしていたが、銅版や活版による洋装本教科書の仲卸としての特約販売所業務がそうした店の新たな仕事となった、という旨の記述が、今日図書館から借りてきて読み始めたばかりの柴野京子『書籍と平台』(2009年初版 弘文堂)にみえる)。
ごそっとした手触りの、かなり厚手(120kgくらいあるかしらん)の紙。流石に百二十年以上も経っているだけのことはあってか、腰は未だに十分あるものの、虫損部分は固より折り目や縁などは幾分か脆く、破れやすくもなっている。
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小口側のカヴァー天地を内に折り込んでそこに表紙を挿し込み、その上からヒラの余り部分を見返し側へ被せ、外れにくいようにしてある。
背革クロス装の本体のヒラには何も印刷されていない。面陳するにはこのカヴァーがかかっている必要があったことになるので、会計のときに被せたのではなく、土間店の売り場に陳列する際にすでにこの状態にしてあったものと思われる。
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背の天地はがっさり喰われてしまっていて、内側への折り込みがあったのかどうかはわからない。
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貼りつけてある紙片は、旧蔵者の購入年の覚えが書きつけてあったようだ(多分終いの部分は「求之」とかだろう)。広告文ごと残っていれば面白かったのに。
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厚手のダストカヴァーのお蔭で、虫損のない部分は外装の状態も比較的よい。もし裸本だったら、あるいは栞紐も喰いちぎられて残っていなかったかも。
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なお、神田神保町で長年数多くの古本を見てこられた、日本古書通信社総顧問でいらした八木福次郎氏のご著書『古本便利帳』(1991年再版 東京堂出版)には、書籍の差込函や帯についての初めについてはおおよそいつ頃からか書かれている(前者は「明治四十一、二年からのことらしい」、後者は「大正になってからではないか」とある)が、ダストカヴァーについては「破れやすい半透明のパラピン・カバー付の本」が明治・大正期(の「珍本」)にもあった、という話は出てくるものの、最初にかけるようになった時期については書かれていない。
同氏の『古本屋の手帖』(1986年初版 東京堂出版)にも、モノによっては本体よりもダストカヴァーの方が何倍もの古書価がつく古本がある、という一章「カバー一枚が何万円」はあるが、やはり「初めがいつ頃だったか」という話は出てこない。ご商売柄「如何に高値がつくか」というところに主眼がおかれているから、そういうのとは関係ないことについては素通りされてしまっているのも仕方がないのだろうが……ちょっと残念な感じ。
#コレクションログ
#比較
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図版研レトロ図版博物館
「科学と技術×デザイン×日本語」をメインテーマとして蒐集された明治・大正・昭和初期の図版資料や、「当時の日本におけるモノの名前」に関する文献資料などをシェアリングするための物好きな物好きによる物好きのための私設図書館。
東京・阿佐ヶ谷「ねこの隠れ処〈かくれが〉」 のCOVID-19パンデミックによる長期休業を期に開設を企画、その二階一面に山と平積みしてあった架蔵書を一旦全部貸し倉庫に預け、建物補強+書架設置工事に踏み切ったものの、いざ途中まで配架してみたら既に大幅キャパオーバーであることが判明、段ボール箱が積み上がる「日本一片付いていない図書館」として2021年4月見切り発車開館。
https://note.com/pict_inst_jp/
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