Malaria! 独逸女性バンドMの系譜 (第2版)
初版 2024/03/21 21:00
改訂 2024/04/12 06:43
NDWの語る上で外せないのが、Malaria!を中心とした女性バンドの活躍です。今回は、最も有名なMalaria!とその前後のバンドが、NDW期とどのように関わってきたか?そして、M_Sessionの魅力について紹介できればと思います。多分、今まで紹介したきたバンドとも関わっているので、後で総合的に理解してもらいたいです。
Malaria!
先ずは、Malaria!について書いていきましよう。Malaria!は、1981年に西ベルリンで結成されたバンドで、メンバーは全員女性です。メンバーは、その前にMania D.と言うこれまた女性バンドを組んでいたGudrun Gut (グドルン・グート)とBettina Köster (ベッテナ・ケスター)を中心に、Manon P. Duursma (マノン・P・ドューァズマ), Christine Hahn (クリスティーネ・ハーン), そして、後にDie Haut (ディー・ハウト)に加入するSusanne Kuhnke (スザンヌ・クーンケ)が加わり、後にDie Kruppsに参加することになるEva-Maria Gößling (エファ・マリア・ゲスリンク)も参加するようになり、また、後にLiaisons Dangereuses (リエゾン・ダンジュルース)を結成することになるBeate Bartel (ベアルテ・バルテル)やKarin Luner (カリン・ルーナー)も加わることがあったみたいですが、記述のみ。
Mania D.
それでは、その母体となったMania D.について先ず書いておきます。1979年に、西ベルリンで、Gudrun Gut (Drs, Vo), Bettina Köster (Sax, Vo), Beate Bartel (B, Vo)によって結成されており、最初は、西ベルリンの有名クラブSO36でのライブ音源とDüsseldorfの有名クラブRatinger Hof(ラティンガー・ホフ)でのライブ音源をまとめたカセットをリリースし、ライブではEva-Maria Gößling(Sax; Eva Gosslingとも表記)も参加していたらしいです。実は、その1年前に、Bettina (Sax)とGudrun (Stylophone)で、Din A Testbild (ディン・アー・テストビルト)と言うバンドと言うかワークショップ・グループに在籍しています。それで、Mania D.では、ドラム、ベース、サックスにヴォーカルと言う異形の実験的ロックに演っており、同時に彼女達はEisengrau (アイゼングラウ)と言う洋服屋兼レーベルを運営しています。1980年に西ベルリンで行われたGeniale Dilletanten (ゲニアレ・ディレタンテン; このイベントについて別項で)と言うフェスにも彼女らは参加、その時に、Einstürzende NeubautenのBlixa BargeldやAlexander von Borsig (後のAlexander Hackeで、当時15歳!)と知り合いになります。この辺りで、個々人が他のバンドのメンバー達とのコラボ・カセットを沢山出しています。Mania D.は、1980年にシングル"Track 4"をTangerine Dream/Agitation FreeのChristoph Franke (クリストフ・フランケ)のプロデュースで出していますが、このシングルは、UKのBBCのラジオ番組の有名DJ John Peel Sessionで盛んに放送されていたらしいです。
Mania D デビューシングルより"Track 4"
ただし、これだけしか当時のリリースはなく、次のステップとして、先述のメンバーで、1981年にMalaria!を結成します。
Malaria!のデビューシングルは、ベルギーのレーベルLes Disques Du Crépuscule (レス・ディスクス・ドゥ・クレプシュクール)から、いきなり英語のタイトル"How Do You Like My New Dog?"でリリースされてビックリしましたが、この時のメンバーは、Gudrun (Drs, G), Bettina (Vo, Sax), Christine Hahn (B, Drs), Manon P. Duursma (G), Susanne Kuhnke (Synth)と言う布陣で、かなり重苦しい曲でした。翌年、シングル"Malaria!"とファースト・アルバム"Emotion"をリリースしています。アルバムは、より硬派なポストパンク調で、かつUSなんかの「女性バンド」と言うステレオタイプを完全に打ち負かした妖しく呪術的な作風となり、如何にも独逸女性らしい剛直さを具現化しており、好評価でした。
Malaria! "シングルA面 "Kaltes Klares Wasser"
Malaria! EP "New York Passage"
同年には、更に、"Weisses Wasser: White Water (ヴァイセズ・ヴァサー)"と"New York Passage"と言う2枚のシングル/EPも出していますが、前者が冷徹さも伴った硬派な作風であるのに対して、後者は、セルフカバー曲"You Turn To Run (元曲はデビューシングルの"I Will Be Your Only One")で、スマートさも示しており、Malarila!としては、このEPが最も商業的にも成功した作品となり、世界的には、このイメージが強いと思われます。1983-4年頃ほ、彼女達はUSのNYCで活動することが多く、USのライブカセット・レーベルROIR(ロアール)からもライブカセットも出しています。
Malaria! "Beat The Distance"より"You You"
そうして、1984年には、EP "Beat The Distance"をリリースします。コアな部分は変わっていないとは思いますが、かなり音質がクリアになっており、印象が異なる感じもします。また、スタジオ録音と一緒に、ライブ音源も含まれており、判断に困る作品となっています。そして、このリリースで、一旦、Malaria!は暫く活動停止します。私のMalaria!のイメージと言うのは、ドコドコしたドラムがややスローなテンポで打ち鳴らされ、そこに、シンセやフリーキーなギターが絡み、おどろおどろしいようなヴォーカルが朗々と独逸語で歌うと言う感じで、独特のビート感(土俗的?)をビシビシ感じることが多いですね。何となく、男性なんかいなくても自立できる硬派女性のイメージです。その一方で、初期には、主にヴォーカルを取っていたBettina Kösterは、「パンクのHildegard Knef(ヒルデガルド・クネーフ: 独逸の国民的歌手/女優/作家)とも言われていたそうです。
Matador
それで、次に、Matador (マタドール)ですが、メンバーは、Gudrun Gut, Beate Bartel, Manon Pepita Duursmaの3人で、実は1984年に既に、日本のカセットブックTRAに作品"Jetzt Oder Nie (イェツト・オーデル・ニー)"としてリリースされてはいるのですが、実際に正式なアルバムとしては、1987年にWhat's So Funny About (Zick Zackを統合したレーベル)からリリースされた"A Touch Beyond Canned Love"まで待たなければなりませんでした。この時は、Gut (Trumpet, Drs, Vo, Piano, Electronics), Bartel (Drs, G, Piano, Tape, B, Vo), Duursma (G, Melodica, Piano, Violin, Vo)で、Malaria!の路線を更に重く硬く冷徹にしたヘビーな作風でした。
Matador "A Touch Beyond Canned Love"より"Abortion"
ところが、セカンド・アルバム"Sun"では、Voov(ヴーヴ)ことChristian Graupner (クリスチャン・グラウプナー)によるミックスの為なのか、当時の「キラキラ」エレ・ポップ路線になり、The Supremesの"Stop! In The Name Of Love"のカバーも含み、当時は、「ベルリンのBananarama」とも言われたとか。更に、1991年作のサードアルバム"Écoute (エクテ)"では、ダークウェーブ風エレ・ポップへと変化してしまい、この作品後、GutとDuursma は、Malaria!に戻ります。Malaria!では、Bettina Kösterと共にGutとDuursmaに加え、更に多彩なゲストも入れて、1993年に、新録アルバム"Cheerio"を出していますが、大雑把に言うと、元々はやはりダークウェーブで、音数だけ多いかな?と言う印象です。また、同年には、Malaria!の曲のリミックス・アルバム"Delirium (Remixed• Remade• Remodelled)"を出しており、こちらの方が多彩で面白いかもです。
Malaria! remix album "Delirium (Remixed• Remade• Remodelled)"
まぁ、何で上記3バンドが重要かと言うと、キーパーソンであるGudrun GutとBettina Kösterがどのバンドに関わっており、それぞれのバンドで、作風も音の感触も変わって行くのですが、それがNDWの流れにもシンクロしていると思われるからです。そしてまた、他に関わった人物もやはり時代を先取りしたり、流されたりと、変化していったからです。と言う訳なんですが、2021年にリリースされた2枚組LPで、Monika Werkstatt (モニカ・ヴェルクスタット), Mania D., Malaria!, Matadorによるセルフ・コンピレーション・アルバム"M_Session"がリリースされ、Gudrun GutやBettina Köster辺りの再評価がされたことがあり、取り上げように思った次第です。この2枚組の内、LP2はレアトラック集ですが、LP1は、Gudrun Gutを中心に、独逸在住の女性アーティスト及びMonika Enterplise/Moabit Musikのプロデューサーから成る集団(多分、10数名から成る)として、2015年に確立したMonika Werkstatt (一種のワークショップ的グループ)によるセルフ・リミックス集となっている点が面白い所でもあります。それを聴いたのが、今回、私的に彼女らの活動を纏めてみようと思ったキッカケです。
M_Session
Monika WerkstattによるMalaria! "You You"のカバー