Einstürzende Neubautenの独自性と進化過程 (第2版)

初版 2024/03/20 00:30

改訂 2024/04/11 10:09

Einstürzende Neubauten (「アインシュトゥルッツンデ・ノイバウテン」: 崩壊する新建築の意)の登場には驚いた!多分、一番最初に、購入したのは、1981年にZickZackから出たファースト・アルバム"Kollaps"だと思いますが、裏ジャケの写真が凄かった!とにかく、通常のベースやギターや安物のリズムマシンDR-55以外に、夥しい量の鉄板や鉄屑、掘削機、斧、金属製チューブ等々が、ベルリン・オリンピック会場跡で陳列され、その後ろにBlixa Bargeld, F.M.Einheit, N.U.Unruh (本名:Andrew Chudy)のメンバー3人が自信有り気に立っているモノクロ写真があった。しかしながら、実は、1980年にライブステージに立った最初のメンバーは、Blixa Bargeld, N.U.Unruh, Beate Bartel, Gudrun Gutであったが、女性メンバーの2人BartelとGutが自分達のバンドMania Dを結成する為に直ぐに脱退し、当時、ハンブルクのパンクバンドAbwärts (アブヴェルツ)に在籍していたF.M.Einheitが代わりに加入してきて、皆さんが知っている初期のメンバーとなっています。また、早熟(当時、まだ15歳)の天才と言われたAlexander von Borsig (後のAlexander Hacke)もサウンド・テクニシャンとしてバンドに帯同していましたが、後に、正式メンバーになっています。それで、それ以前には、「メタル・パーカッション」なる音楽用語は無かったが、このアルバムで、それが彼等のアイデンティティーとまで言われるような用語になっていきます。しかし、そのキッカケは、余りにお金が無くて、Unruhがドラム・セットを勝手に売ってしまったので、仕方無く金属板とかをドラム代わりに使ったのが由来らしいです。しかしながら、彼等は、「鉄」と言うタームには、割と最初から拘っていたようで、ファースト・アルバムの前に出したカセット作品の表題が、"Stahlmusik(シュタールムジーク;「鉄の音楽」後にLP再発された)"であったことからも想像できますね。なお、この時の演奏はBlixaとUnruhだけです。

E. Neubauten 再発盤 "Stahlmusik"

確かに1970年代にもUS西海岸のZ'evによる金属屑を使ったソロ・パフォーマンス等もあることはありましたが、E. Neubautenのそれは、バンドとしてメタル・パーカッションを正式に取り入れている所だろうと思います。それまでに、そんなバンドは聞いたことも見たことも無かった。しかも、アルバムの内容も独逸語を使って、ちゃんと曲になっているのも魅力的だった。後、特筆すべきは、もう一つあって、それはBlixaの唱法で、息を吸い込む時に、喉を掻き切るように鳴らす歌い方も独特なものだと思います。

E. Neubauten 1st album "Kollaps"よりタイトル曲"Kollaps"

このアルバムは、まだ3人だけと言うこともあり、かなりノイズ度数が高く、ヴォーカルもバックの音もアジテーションとすら思えます。1982年には、2本のカセット作品を出していますが、1983年に、UKレーベルSome Bizarreより2枚目のアルバム"Zeichnungen Des Patienten O.T./Drawings Of O.T.(ツァイフヌンゲン・デス・パティエンテン・OT「患者O.T.のスケッチ」)"を出します。この患者O.T.とは、オーストリアのアウトサイダー画家Oswald  Tschirtner (オズワルド・チルトナー)のことで、この時のメンバーは、Blixa, Unruh, Einheitに加えて、Alexander von BorsigとMarc Chungが加わっており、更に演奏とミックスでJon Carfferyも参加しています。メタル・パーカッションの録音も良く、何かの指示書(楽譜)に基づて演奏をしているようで、より「音楽的」になっています。

E. Neubauten 2nd album "Zeichnungen Des Patienten O.T./Drawings Of O.T."より"Armenia"

その翌年1984年には、USのライブカセット専門レーベルROIRより、カセット作品"2x4"(後にはCD再発されています)をリリースしており、1980-1983年の間のライブ音源をコンパイルされています。そして彼等は独逸だけではなく、またNDWの波とは別に活動範囲を広げて行き、世界中を熱狂させてきています。例えば、初来日公演の前には、新聞に「廃墟求む」の求場広告が出たり、写真雑誌Focusでは、「会場を破壊するバンド」として、ステージに掘削機で穴を開け、火を燃やす写真とかが扇状的に掲載されたりと結構、一般人にもアピールする扱いがされていました。まぁ、当然、私も友人達と初来日(1985年)は観に行きましたが、会場は廃墟ではなく、後楽園ホールでした。

E. Neubauten 初来日@後楽園ホール

その時、鉄の芸術家三上晴子は、彼等のトレードマークの「目玉人間」みたいなロゴ(これは、インカ帝国の壁面に書かれていた印をBlixaが引用したもの)を鉄板で作製し、また、石井聰亙監督は、それがキッカケで、バンドの3枚目のスタジオ・アルバム"Halber Mensch (ハルバー・メンシュ; 1985年作)に合わせて映画「半分人間」を日本で作製しています。なお、アルバムのジャケ写の縁取りは、人間の歯を並べたものです。

E. Neubauten "Halber Mensch"

多分、初来日に合わせて12インチEP"Yü-Gung"を1985年にSome Bizarreから出しており、初来日の時も、新曲"Yü-Gung"も披露してました。その頃の音は、寧ろポップとか通常のロックでもあり得そうな位、聴き易くなっており、そのEPでは、実際、USのシンガーLee Hazlewoodの曲"Sand"を見事にカバーしています。その為か、私は、追っかけるのをやめたんですが、後々、偶にCDとかを買ったりしてました。

E. Neubauten 12inch EPより"Yü-Gung"

その後、4枚目のスタジオ・アルバム"Fuenf Auf Der Nach Oben Offenen Richterskala (ヒュエンフ・アウフ・デル・ナッハ・オーベン・オッフェネン・リヒタースカラ)邦題「上方地震波五」"をSome Bizarreから、1987年にリリースしています。このアルバムには、カナダの歌手Bonnie Donsonの持ち歌でTom RoseやThe Greatful Deadでもお馴染みの曲"Morning Dew"のカバー曲も入っており、メタル・パーカッション等の通常楽器以外のものを使っているにも関わらず、曲の構成力が半端無く、また独特の聴き易さ(ポップネス)を持ったアルバムだと思いますが、この頃になると、リスナーのアイドル扱いも下火になってきたかも知れませんが、曲自体もキチンと整頓されてきます。

E. Neubauten 4th album "Fuenf Auf Der Nach Oben Offenen Richterskala"

 その後、1989年にRough TradeとSome Bizarreから、5枚目のスタジオ・アルバム"Haus Der Luege (ハウズ・デァ・ルェゲ「嘘の館」)"をリリースします。この作品では、ノイズ度数は低くなっており、キチンとした曲構成だけではなく、アルバム全体としても組曲風(特に"Fiat Lux"とか) になっています。この頃からBlixaの歌詞(勿論、独逸語)とエレクトロニクスの使用の比重が増えていくと同時にBlixaの唱法も押し殺した感じになってきます。このアルバムの約1ヶ月後にベルリンの壁は壊されることになります。

E. Neubauten 5th album "Haus Der Luege"


少し間は空きましたが、1991年には、東独逸在住の脚本家/劇作家のHeiner Müllerのラジオドラマ"Die Hamletmaschine"のサントラとして、同名のアルバムをRough Tradeから出します。このアルバムでは、BlixaとMalaria!のGudrun Gutが声優としても参加しています。そうして、1992年に6枚目のスタジオ・アルバム"Tabula Rasa (タブラ・ラサ; 「白紙」)"をElektraとMuteからリリースします。この時に話題になったのは、英米のレーベルから英詞で歌えと言われ、英語、独逸語、仏語、日本語の異なる言語のヴァージョンの曲"Brume"を敢えて作ったと言うことですね。それから、音の方もスッカリ落ち着いてきたように感じます。また、デビュー当時は髪を逆立て、ガリガリだったBlixaがちょっと恰幅良くなってきたのもこの頃ではなかったのか?

E. Neubauten 6th album "Tabura Rasa"より"Brume"

このアルバムは、より内省的な曲作りになり、見事に成熟した独自の音楽を作り上げてきました。ただ、噂では、3年間で録り貯めた50本以上のテープから厳選して曲を集めた為、Blixaは「最も統一感の無い作品」と評しているそうです。

そうして、1996年に、7枚目の新録アルバム"Ende Neu (エンデ・ノイ)"をMuteから出しますが、Marc Chungは既に抜けているようです。その代わり、豪華な弦楽奏者が多数参加しています。音的には、A1 "Was Ist Ist"の大人数の合唱と危機迫るような曲調のコンビネーションがゾクゾクします。史料では、この時にDie Ich'sのJochen Albeitが加入したり、Chrislo Haas (Liaisons Dangereuses)らの豪華ゲストのあったそうですが、クレジットには記載されていません。ここら辺はまた、確認してみます。また、1997年には、本アルバムのリミックス・アルバム"Ende Neu Remixes"が出ており、UKヒップ・ポップ界隈にも多大な影響力を放つバンドに化けていますね。

E. Neubauten 7th album"Ende Neu"


E. Neubauten 7th album "Was Ist Ist" live version

その次には、2000年に、Muteから8枚目にして2枚組アルバム"Silence Is Sexy"を出しますが、ここでのメンバーは、Blixa(Vo), Unruh (Others), Hacke (B)のコアメンバーに加え、Die Ich'sのJochen Albeit (G)とRudolph Moser (Drs)が正式に加入しており、ここまで音楽的なエキスパートであり、長年のメンバーであったF.M. Einheitは脱退しています。どうもBlixaとの音楽的方向性の違いが原因らしいです。内容は、かなり内省的で静かな曲が多いように感じます。Blixaもそんな曲では呟くように歌っています。また、ライブではヴォーカルに専念しています。ちょっとした問題作と言えるかも知れませんね。あと、アルバム・タイトルが英語であったのも、独逸語に拘ってきた彼等にしては大変珍しいです。

E. Neubauten 8th album "Silence Is Sexy"

このアルバムの前後で、映画のサントラ"Faustmachine"や劇伴の音楽"Berlin Babylon"も出しています。。"Silence Is Sexy"の後には、ライブ音源を出しています。それで、一旦は、積極的な興味を失っていた私も、2000年にMuteから出た10枚目のアルバム"Perpetuum Mobile (永久機関)"を聴いて、メタル・パーカッションだけではなく、プラスチック・チューブ等の加えて自在に作り込まれたE. Neunautenの音楽にまたもやショックを受け、再び彼等の音源を集めるようになりました。

E. Neubauten 10th album "Perpetuum Mobile"より、"Ich Gehe Jetzt"

それで、この頃だと思うのですが、彼等は、既存のレーベルに配給や宣伝を頼るのではなく、バンド独自のパトロン制度を導入し、ファンから会員料金を集めて、それを使って自分達でアルバムを作製・流通させる独自のサポーター・システムに切り替えていき、その代わりに、サポーターには、練習風景や録音風景などをリアルタイムで配信し、またサポーター限定の音源(USBやCDR及びカセット等)を配給したりしていくことになります。また、彼等の音源のみを配給するレーベルPotomakも立ち上げます。そんな中で、彼等が時々リリースしていたセルフ・コンピ・アルバムのシリーズ"Strategies Against Architecture Vol.3 (1991-2001)"を3枚組LPボックスで入手して聴いたのですが、益々、彼等の音源を集めようと言う気になりました。

E. Neubauten 3LPs "Strategies Against Architecture Vol.3 (1991-2001)"

Blixaの独逸語に拘った作詞力とその表現力、更にN.U.Unruhの音楽への情熱は益々磨きが掛かり、渋くて新しい「音楽」を作り続けている姿には感動すら覚えます。まあ、そう言うこともあって、私も金属屑集めていましたが、これを演奏・録音するのには、結構、大変でした。それにしても、彼等が未だに現役で、バンドとして音楽をやっているとは40数年前には思いも寄らなかったです。

最後に、現在のメンバーを記しておきます。Blixa Bargeld (Vo, G, Gong, Polyester Fabrics, Door Noise, Choir), Jochen Arbeit (G, E-bow, Effects, Choir),  N.U.Unruh (Electric Hums, Blow-torch Pipes, Dulcimer, Field Recordings, Choir), Alexander Hacke (B, Electronics, Choir), Rudolph Moser (E-Perc, Dulcimer, Bowed Jet Turbine, Bowed Radiator Grill, Metal Sheet, Bass-Dr[Kick], Big Drs, Choir)。もう少ししたら(現在、2024年3月)、新譜が出るらしいですので、楽しみにしています。

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Dr K2

ノイズ歴約40年のDr.K2が今まで聴いてきた音楽(主に地下音楽)を出来るだけアナログ縛りで紹介していきます。ご興味のある方はどうぞご自由に観て聴いていって下さい。アングラのコンサルジュ。

twitter:@k2kinky

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