ファニーの傑作

初版 2023/08/26 19:38

改訂 2023/08/26 19:38

ピアノ三重奏曲ニ短調op.11

第1楽章 アレグロ モルト ヴィヴァーチェ

第2楽章 アンダンテ エスプレッシーヴォ

第3楽章 リート:アレグレット

第4楽章 フィナーレ:アレグロ モデラート

ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル 弟フェリックス・メンデルスゾーンと同じく頭文字で書くとF・メンデルスゾーン。彼女の作品を検索すると必ず、たくさんのフェリックスの作品が入っている。それほど、この女性の才能は軽く見られてきている。それでも、フェリックスがその短い生涯に書いた作品に、多くの彼女の面影を聴くことができる。世に出るチャンスが女性であるがゆえに、不当に閉ざされてきた姉の才能をフェリックスが誰よりも知っていたのだと思う。また、誰よりも彼女の才能を必要としていたのだろう。

フェリックスも長生きは出来なかったが、同じく彼女もあまり長生きはしていない。享年42歳。その若い日の肖像画はどれも美しく可憐である。
この作品11は1847年その弟フェリックス・メンデルスゾーンの校訂によって出版された。

豊かな旋律美と流れるような旋律線はフェリックスの特徴であったが、それはまた姉の特徴でもあった。とくに歌曲に関しては弟はあきらかに姉の才能に届いていないとする研究家の意見が現在では多くなっている。

それはとりもなおさず、彼女の音楽的才能に対して現代の目が向けられてきたという証左でもある。

この最後の年の作品、その第1楽章の凄まじいロマンティシズムと命の横溢はどうだ。

豊かに整えられた弟の第1番のピアノトリオの大きなスケールと比べてもタイプは異なるけれど、素晴らしい密度の熱が詰まっている。

そして、表現者の中に昇華されたベートーヴェンやスメタナをもう一度作品の中に感じさせ、そのポテンシャルによってこの作品は構成をゆるがせにすることなく、柔軟に表現を受け容れるだけの深さを持っている。

ボクが選んだ演奏はCDのソースと同じものらしい。劇的な表現で音楽を創っているけれど、それもまたこの曲には十分に馴染んでいる。
ピアノの渦を巻くような生命感のある流れの中に浮沈する旋律の濃厚で息の長い線は対位する楽器同志の響きの軋みの中でうねるように流れを造る。ヒステリックではなく、骨太いのだ。
彼女は17歳の頃ピアノ四重奏曲を作曲している。その曲がモーツァルトのような親密な響きと繊細な楽器間の距離を測って整えられているのと比べると、何て、才能に確信を持った歌い方だろうと感じてしまった。
これは聴きものである。
第2楽章は彼女らしい息の長い旋律線が優美なチェロによって引き出され、ヴァイオリンによって歌われます。ピアノはその中心にあって回っている旋律を繋ながらテンポを変えていく。

説得力のあるメロディはピアノの音色と同系色のヴァイオリンに引き継がれ、重ねられるチェロによって速度を落としていく。息を継がないように優美な音楽は過度なセンチメンタリズムニ陥ることもなく、気品を保ったまま音楽を内面からのエスプレッシーヴォで支える。
第3楽章はリート。歌ですね。スケルツォではなく、変わった発想だが、間奏曲風に愛の歌が歌われている。


フィナーレ楽章は美しいピアノのアルペジオから入り、ここで採られているギャロップ風の旋律はフェリックスのモチーフなのかどこかで聴いた気がするが、ああ!思い出した。
イギリスの作曲家ジェラルド・フィンジィのチェロ協奏曲の第3楽章の主題だ。
勿論ファニーが先だが、激似だね。
とはいえ、
ここまで来るともう家族やサロンで楽しむ親密なトリオというレベルではない完成度の高さは見事。作品のバランスもよく、これはそのうち女流とかのレッテルは外れてゆく作品だと思う。


古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

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