憂い顔の騎士
初版 2023/08/22 13:28
改訂 2023/09/04 10:20
エドワード・エルガー/チェロ協奏曲ホ短調OP.85
第1楽章 アダージォ~モデラート
第2楽章 レント~アレグロ・モルト
第3楽章 アダージォ
第4楽章 アレグロ・モデラート~アレグロ・マ・ノントロッポ
20世紀のチェロと管弦楽のために書かれた音楽の中で最高の作品といわれる。
チェロという楽器はViolinCello(VC)と書かれるように歌う楽器であるヴァイオリンの眷属であり、その長であるヴァイオリンやアルト・ヴァイオリンであるヴィオラとはその大きさの関係で、コントラバスほどではないが、全く弾き手が探る音の方向が異なる。
ヴァイオリンやヴィオラの高音は奏者の手許に近く、チェロの高音は奏者から最も遠い位置にある。
つまり、このエルガーの第1楽章の序奏の中、乾いた冬の落日の陽光が、消えゆく一瞬の高揚を示すように燃え上がる部分、その高音の階(きざはし)を一気に飛翔する屈指の旋律は、その天馬空を行くような上昇感覚とは逆に、チェリストは指と弦を自分から離れた位置に探りながら、楽器の最下部のブリッジに最も近い高音部まで力を込めたその左手指を下降させて行く。
生まれた音楽と生み出す楽器のギャップをこれほどはっきりと示すフレーズも珍しい。
とはいえ、ボクは様々なチェロ協奏曲のある中、イギリスが生んだ恋多き紳士の、この作品は最も好きな作品のひとつです。
ドヴォルザークのような手放しのノスタルジーもスケールも必要としない、簡潔な素材、シンプルなオーケストレーション。
曲全体を包むセピア色のくすんだ陽の光は、厚くたれ込めた雲の間から、移ろうように差し込んでは雲間に隠れて行く。
時は水平に流れながらゆっくりと下降し、夕映えが、かけがえのない人の顔すら見えない闇に隠れてしまうまで、澎湃として心に温みを満たしてゆく。
クラリネットとホルンによって縁取られたチェロの独奏が、優しくも侘びしい孤独の美しさを歌うアダージオは、楽譜だけではなく、奏者の人生の質が問われるような音楽です。
沈鬱な思いを引き摺りながら、戻れない人生をたぐり寄せるような第4楽章のチェロのむせび泣くような序奏から古い写真の赤茶けた懐かしさが幾重にも浮き上がってくる。
孤独と矜持と動揺と毅然がひとつのフレーズに込められ、赤と黒は闇の色に近づく。
そんなときでも不思議とこの曲は何処かに細い光りの筋が温もりを伝える。
『憂い顔の騎士』この曲に付けられたニックネームである。
不思議とこの男性的な作品は女性の奏者に愛されている。
実際エルガーという人の作品にはヴァイオリンにしてもこのチェロにしても女流奏者の名演奏が多いように思う。こういうところもちょっと女ったらしだね。
忘れられない演奏は2つ。
パブロ・カザルスのモノラルとエルガーのこの作品を短い人生の中で、何度も取り上げたジャクリーヌ・デュ=プレの演奏です。
なかでも、SIRジョンとロンドンSOとの共演で録音されているものが素晴らしい。ともすれば情熱過多になることもある彼女の天性をバックが支え切っています。
使っている楽器は彼女が最初に匿名で寄贈されていた1673年製の初代ストラディヴァリウスで演奏されている。この楽器は彼女が16歳にデビューするころから使用しているチェロだと思います。彼女は26歳の秋、多発性硬化症の診断を受け、事実上音楽界から引退しますが、それ以前にもう一つ、さらに高名なストラディ・ヴァリウス”ダヴィドフ”を贈られています。それについてはまたの機会に書いてみたい。
Mineosaurus
古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。
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