Person1 セルゲイ・ボルトキエヴィチ(完璧な不完全)

初版 2023/08/07 11:58

改訂 2023/08/07 18:35

セルゲイ・ボルトキエヴィチ/左手のためのピアノ協奏曲op.28(ピアノ協奏曲第2番)

第1楽章 アレグロ ドラマティコ
第2楽章 アレグレット
第3楽章 アレグロ ドラマティコ
第4楽章 アレグロ ヴィーヴォ

第1次世界大戦で右手を失ったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタイン(下記演奏を紹介したYoutubeの制作者はその写真もビデオの中で紹介しています。私が持っているボルトキエヴィチのソースもすべて出てきます。ひねくれものは爺だけではない。( ´艸`)

が多くの作曲家に左手のみで弾けるピアノ曲や協奏曲を依頼したのは有名な話で、その中にはラヴェルの作品やプロコフィエフの作品、コルンゴールドの作品、ブリテンのディヴァージョンなどのピノ協奏曲やピアノと管弦楽の作品がある。ラフマニノフにも当然依頼している。とにかく富豪であったのは確か。

ただ、このボルトキエヴィチの左手のためのピアノ協奏曲がヴィトゲンシュタインの依頼によるものであったのかどうかボクは知らないけれど、どうやらヴィトゲンシュタインがこの曲を弾いている録音が存在するようだ。

ノーツにロシア語で何か書いてあったけど、例によって読んでない。

しかし、作品の方向性はラヴェルの書いたものとはまるで違う。

ここには時代の先端を行く感性の斬新はなく、非常に懐古的な19世紀末期の匂いがする。

依頼者がこの作品を避けた(ボクにはそう思えるのだけれど)のは、求められる表現力が片手指の範囲を超えているからなのかも知れない。

でも、よく聴けばピアノが左手に表す旋律を右手が雰囲気で覆うようにここではペダルと管弦楽のソフトなフォーマットがカヴァーしていて非常に協調的な世界が広がっている。

音楽はまるっきりラフマニノフである。

それも漆黒のナハト・ムジーク(夜曲)。

Youtubeのソースを聴きながら読んでくださると感応しやすいかと。

第1楽章のアレグロ・ドラマティコはそっくりそのまま第3楽章冒頭でも顔を出すが、ラフマニノフの第二番の冒頭が闇わだから滲み上がってくるようなさらに黒い夜のムードを持つのに対し、ここにあるのは光のオケの中になだれ込み、闘いながら満ちて行く膨大な闇である。その底の部分に行きついたところからピノの厚い響きが立ち上がってくる。
この部分はちょっと左手とか何とかの意識は無用の凄みがある。
展開される主題は明らかにラフマニノフのイデオムを持っている。
オーケストラの色彩感もあまりなく、喪に服したような厚い響きでピアノを遠巻きにしつつ呼吸を合わせている。
混然とした部分は異様にロマンティックでデモーニッシュであり、ピアノは自ら前に出て技巧の粋を見せつけるのではなく、5本の指のみの限界を非常に音楽的に処理していて隙がない。


左手だけのカデンツァの清新なリリシズムは闇の中に一掃け光の線を描き込んでいる。
それはチェロと語らうかのように絡む。
ボルトキエヴィチのピアノ協奏曲はどの作品もロマンティックで素晴らしいけれど、この作品の力の入れ方は並みではない。


第2楽章の優美な歌には1音を線として紡ぐペダルと弦楽の見事な歌があり、真夜中に馴れてきた目に次第に周りの夜が見えるようになるように、気づかなかった音楽の優美さと抒情が広がる。
真上から落ちてくるようなピアノの和音の効果は軽さの中に重い杭を打って行くような存在感がある。
「うん。協奏曲であるな、」と思い直す。

ヴァイオリンとの瑞々しい会話、ほんの少しエピソードが夜明けの雰囲気を運ぶように次第に高まりつつ、ピアノはヴァイオリンと美しい歌をうたう。

(YouTubeのこの演奏は第2楽章途中で切れ、その途中から第4楽章までの部分の2つに分かれている。再発見と紹介を目的にしているのでここでは入り口の最初の部分を紹介します。お気に召せばPart2も聴いてみて下さい。天才ではあるが、ラフマニノフと同時代に生きた鼻の差で埋もれてしまった天才は他にもいることを知ることができます。)

これはあくまで左手だけのピアノ協奏曲です。
第3楽章はまるで第1楽章の蘇り。
明け初めてきた夜に再び闇が注がれたように音楽は回帰しますが、ピアノには異なったニュアンスが生まれ始め、第4楽章のファンファーレにつながって行きます。
ここは一気に人が巷に溢れたような音楽です。
各動機が生きていて非常にポリフォニックな交響詩を聴いているような感じ。
強いて言えば真っ黒な箱の中からいきなりプーランクが飛び出してきたような。
ユーモラスなアルペジオ。
カデンツァもしっかりしていて、本当に左手だけという印象が希薄な力強い作品。

古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

Default