インプロヴィゼーション
初版 2023/08/04 23:55
改訂 2023/08/06 15:07
ピアノという楽器に限った事じゃないと思うけれど、楽器の演奏を楽しむには様々なヴァリエーションがある。
弾き手が紡ぎ出すその音色のみを純粋に楽しむもの。
あるいはその弾き手の解釈が良くも悪くも楽譜を通じて様々な相乗効果を生むもの。
あるいは弾き手の即興性が前面に出て、その場の雰囲気に一期一会の即興の世界を創造するもの。
等など、様々な出会いや失望や感嘆や批判や絶縁やなおあれやこれやが個人の感性の中に生まれては消える。
もともと、即興的な演奏がなされていたはずの古典音楽も、今は楽譜がある以上、一定のルールがそこに敷かれている。
ピアノ協奏曲のカデンツア(昔は作曲者が演奏するのが主な生活手段だったから、自作でピアニストがオーケストラの演奏を止めて独走して見えを切るところ)で、モーツァルトが即興で弾くために自身で簡単な鉛筆書きだけがしてあった部分でさえ、モーツァルトのカデンツアとして譜面上で扱われていたりする。
愛すべきシューベルトのピアノ曲にある即興曲(Imprompts)は即興の曲であるはずなのに、楽譜の解釈の方にウエイトが置かれていて、即興曲集として成立している。
それに近いものは演奏者のごくまれな経験により、演奏者自身が個人的に味わうことがあるかもしれない。例えばショスタコーヴィチが自作の前奏曲集を作曲した時、彼が作曲のため宿泊していたホテルの一室で彼が楽譜を書き上げる側から、作曲家にその場で次々と弾いて見せたタチアナ・ニコラーエワというピアニスト。まさに初見での即興的な演奏だったのではないか。
でもそれは稀な話で、魂が指に乗り移って自由な音のうねりが弾き手の技術と音色によって聴く者の心を揺さぶるまでに達する即興性はクラッシックの現実にはない。(でも、それはクラッシクが古くて不自由だというのではない。それこそ近代ピアノの機能と弾き手の多様性なのだと思う。)
降りてくる音楽。インプロヴィゼーション。そこは、その世界はビル・エバンスやレイ・ブライアントらのジャズ・ピアニストの世界だ。そして、その即興性=インプロヴィゼーションが完璧な形で守られ、長時間にわたって説得力を持ち得るのは、ボクの少ない経験では1967年1月24日のケルンでの1時間6分のキース・ジャレットの演奏の記録以来、各国で行われたキースの同様のコンサートの記録以外にまだ経験していない。
彼の世界は紫煙の向こうから聞こえてくるジャージィなブルー・ノートの雰囲気はなく、緊張と集中の中で生み出された即興性と創造性が正に一つのテーマからアメーバのように増殖する。
一音一音が妥協なく、神懸かり的な演奏が続く。意外性と飛翔、変奏と転調、無調の強打音、打楽器としてのピアノの能力がすべて引き出されていて余すところがない。
当然二度と同じ演奏ではない。それ故、一つ一つが歴史的である。
ケルン・コンサート1975年1月24日のケルンで行われた彼のインプロヴィゼーションは当初2枚組のLPとしてセンセーションを起こした。今はCDという媒体に残り、彼が意図した聴き方とはまた違った展開をしていることは否めないけれど、そこに顕れている天啓は尋常ではない。
1時間6分は一つの芸術を反芻することなく受動する時間である。ぼくらの本当の感動は聴き切ったその向こうにある。
彼がPartⅡ Cを弾き終えて鍵盤から指を離した時、終わりを予想して先走った拍手をできる人はどこにもいなかった。天啓の終わりを知っているのはキースただ一人である。それは画家が『描き切った』と、はた目にはまだ良く描き込めると思えるキャンバスから離れ、筆を置くのに似ている。
ボクの年取った耳はあの頃の集中力と包容力を持ち続けているのだろうか。
Das Kölner Konzertだよな。でも、タイトルはThe Köln Concertって、英語とウムラウトが付いたドイツ文字がごちゃ混ぜ。西ドイツ盤の表記がこうなんだけど。これがアメリカナイズって言うんか?
演奏は4つのパートにわかれている。Part1で、その片鱗を聴き、気になったら続きはYouTubeで全曲版も待っている。
The Köln Concert Part1
Mineosaurus
古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。
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