月の光に思うこと
初版 2024/08/26 00:16
改訂 2024/08/26 00:16
ベートーヴェンの月光ソナタ
この曲を弾くピアニストが、この曲をピアノソナタ第13番と同じく幻想曲風のソナタという作曲者のイメージに拠ったロマン風のソナタであり、献呈する方のレベルに合わせたものとして素直に対峙するか。それとも彼の死後ルートヴィヒ・レルシュタープの有り余る詩的想像による月の光をロマンティックにイメージするかによって,聴き手の感応はかなり違うものになるのではないかと思うけれど、ベートーヴェンが望んだかどうかは彼が死んでからのことだからわかる由もない。
標題が付いた音楽はイメージしやすい。でも、そこから飛んでゆけない。
感性が自由に音を捉えて自分の文学や経験や色彩感覚やいろんな趣種雑多に詰まった知識や感覚で気に入った聴き方ができなくなる。(ボクだけだろうかね。)
感性に枠がはめられてしまう。
ソナタ第14番は各々が裡に育てた『月の光』支配されてしまう。
作曲家自らが標題を付けるということは、そういうことなのかも知れない。
でも、この曲は少なくても作曲者自身の意思はそこにはなかった。
ドビュッシーのベルガマスク組曲第4曲 月の光
意図的なものとすればドビュッシーかな。彼のベルガマスク組曲の中の『月の光』はその枠自体のイメージを表現している。
ある意味世界に広がりはないけれど、描いているものが標題のヒントによって見えてくるのは抽象画と同じだ。演奏者は自分の筆と絵具で、鍵盤を通じてこれを描く。
そうなると作曲者が生まれた同じ夜空を仰いで育った弾き手が有利だね。サンソン・フランソワやミシェル・ベロフ。 なんか透過する光が滲むような香気を振りまく。ミケランジェリは何故かこの曲を録音として残さなかった。紡ぎ出す『光』を表現する数えきれない音の色彩を持っていたはずなのに。
近代フランス音楽に印象派というレッテルがあるが、これは多分につかみ所のないその作風が同時期の絵画の全方位的な光の表現を特徴とする手法との類似性を揶揄された言葉である。
示された月の光の降り注ぐイメージを聴く方が誰でも感じることができる。そういう音楽としてボクは聴いている。
でも、あのドビュッシーでは狼男は変身できそうにない。つまり、現象だけで物語がないんだね。
限りなく黒に近い青と仄白いオーロラのような光のカーテン以外に旋律は生まれない。
見事に美しく即物的である。
ミシェル・ベロフでどうぞ。
ベートーヴェンのはちょっと違う。
非常に主観的なもので、ロマンティックな情景は古典的な景観が浮かび、旋律の流れるままに自分の心のありようが投影され、油断して聴くと情緒が不安定なときなどは涙のひとつも流せそうな作りやすいイメージがある。嬰ハ短調のマジック。
当然この月の光の中では、その満月を背に受けて狼男は何度でも変身できそうである。ただ、『月光』という作曲者を置き去りにした標題を意識した演奏者と聴く者がそこにピアノソナタ14番を置いていると仮定しての話だけれど。
第13番と同様にアタッカで切れ目なくつながるソナタ風の幻想曲。『光』という捉えきれない現象を音で表現したのではなく、ベートーヴェンがイメージした世界に降り注ぐ、彼以外の人々が背後に月を感じる『月光』なのである。
そして、音楽はその第1楽章で終わっているわけではなくて、徐々に早くなって第3楽章の烈しいパトスの中で閉じる。
その旋律には明確な歌謡性があり、誰もが何処かで聴いたことがあるようなロマンティシズムを纏っている。
この頃のベートーヴェンの作品には1楽章はその様な聴き所が作られていて、モーツアルトの頃からは進化してきた聴衆にアピールするだけのものを準備していた。評論家や詩人はそこに自分のキャンバスを広げる。
月光ソナタの光って人間臭いアナログなのです。
ベートーヴェン/ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 op.27-2 『月光』
第1楽章 アダージオ・ソステヌート-アタッカ:
第2楽章 アレグレット-アタッカ:
第3楽章 プレスト・アジタート
『月光』をイメージした演奏の典型ホロヴィッツの第14番を。これほどの色彩がこの曲に必要なのかと、というよりこれほどの音表現の細かさが可能なのかと呆気にとられる。
Mineosaurus
古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。
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