巨人の悲しみ  Gマーラー/交響曲第7番 夜の歌

初版 2024/07/08 22:09

改訂 2024/07/08 22:09

マーラー/交響曲第7番ホ短調≪夜の歌≫

それぞれの楽章についてはそれぞれ渾身の演奏がある。
現代の優れた演奏技術とオーケストラの実力を持ってすればこの巨大な夜の歌を始めから終わりまで緊張を以て弾ききることは可能であると思う。


それでも、これほどの楽器と弾き手が求められ、一堂に会する事の困難さは推してあまりある。
そして、ボクには残念ながらこの茫洋としたシンフォニーを始めから終わりまで同じテンションで聴き続ける事が出来るほどの力はない。
弾き手を集める事も難く、聴き手をその場に終わりまで引きつける事も難い。


マーラーはこの楽曲に何を求めたのだろうか。


隅々にまで気を配られた抒情の糸は管楽の中に埋もれることなく、エキセントリックな旋律を刻む。
そのスケルツォ。


まるで悪魔が声を立てずに笑っているような、滑らかな闇の中の舞曲。
2つの夜の狭間で楽曲は巨大で息の長いため息を引きずるように浮遊し、沈殿し、揮発する。表現主義の先駆とも言える音構造の緻密さ。
明らかな世紀末の匂いの中で、でもマーラー特有の深く緊張感漲る弦楽の張りから生まれるアダージオの世界はここにはない。

通俗的で蠱惑を湛える旋律が明滅しながらどこまでも膨張してゆく。


演奏するものと聴くものを遙かに置き去りにして屹立する巨人は踏み出そうと持ち上げた足を踏み降ろす場所がないのに気づく。
彼が持ち上げた足の下には無数の花が咲き、踏みしだくには優しすぎる繊細な巨人は周りを見渡せば、白々と明けてくる夜の終わりに、踏み出せない一歩を空しく宙に浮かせたまま陽の光の中に朽ちてゆく。


繰り返すが、音楽として個々の楽章の複雑な起伏の中には弦楽器と金管楽器のバランスや響きの遠近法とテクスチュアが見事に整えられてあり、非常に純度が高い。
でも、それらが集い重なり立ち上がった巨人の姿はまるで縛られたまま放置されたガリバーのように緩慢な死に向かっている。


ボクはカラヤンにも、レヴァインにも、テンシュテットにもアッバードにもそしてオットー・クレンペラーにすら今ひとつすくい損ねた楽章が少しずつあって、いまだに聴き通すことができずにいる。
ボクはまだこの第7交響曲を遠くから眺めているしかない。

第1楽章:緩やかに~アレグロ・コン・フォーコ
第2楽章:≪夜の歌≫アレグロ・モデラート
第3楽章:≪影のように≫
第4楽章:≪夜の歌≫
第5楽章:アレグロ・オルディナリオ

古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

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