Person3-3 ニコライ・メトネル 暖めすぎた卵

初版 2024/03/26 19:50

メトネル/ピアノ五重奏曲ハ長調 遺作

第1楽章 モルト プラーチド(平和に、落ち着いて)
第2楽章 アンダンティーノ コン モルト
第3楽章 フィナーレ:アレグロ ヴィヴァーチェ



この曲は作品番号を持っていない。
メトネルは非常に若いときにこの曲を書き始め、完成したのは彼の死の2年前1949年、
彼が没したロンドンである。
ラフマニノフより9歳年下の彼は、極端に溺れるようなロマンティシズムには身を置かず、骨太の音楽を書いてきた。
決して晦渋であるというのではないけれど、どこか屈折したダンディズムがある。
実の兄の奥さんを略奪結婚し(この辺トルストイやドストエフスキーの世界だよね、無茶やるよ。)、世界を流浪し、最後は宗教的にも祖国に目覚める。
この曲はグレゴリオ聖歌の『怒りの日』が静かに俯いたまま呪文のように引用される。
両手を広げ、運命に悲嘆し、声高に叫ぶ『ディエス・イレ』ではない。
裡に突き上げる焦燥と不安、焼け焦げてきな臭い匂いを放つ魂の痛みに両拳を握り、前屈みになりながら息を整えている。
『怒りの日=ディエス・イレ』をモルト、プラチードにと指示した作曲家の静謐の中の嵐に貫かれた曲想。
ライナーノーツには『幽玄』という言葉が見られたけれど、そんなに枯れた音楽のようには感じない。
第2楽章のさらに静かな世界には、彼の人生で澱のように溜まった寂寥感やり場ないノスタルジーが低い体温のまま皮膚から揮発してゆく。
下降も上昇もない、美しく冷えている。
何処かに行きつくテーマを持った音楽ではなく、音楽の持つ世界が再現されるのを待っている。
第3楽章は全楽章までのテーマが回想され、組み立てられる。
全楽章を通じて最も音楽が佳麗に動こうとする。
旋律線が綺麗に整っていて遁走しながら受け継がれる各楽器の編み目が均一で美しい。

長い年月をかけて暖められたたま卵の殻は固くて厚く、内側からだけでは割れそうにない。
この楽章は演奏者によってその深化と真価が分かれるだろうね。

もっと聴かれても良い音楽だと思うけれど、このピアノ五重奏曲ってやつはピアニストと弦楽四重奏団が必要だからね。
お客さんの入りを考えたら無難なプログラムになってしまうだろうなあ。

手持ちのCDの弦楽のアンサンブルは名前が記載されていなくて個々の演奏者名前が書いていましたが、覚えておりませぬ。モスクワ交響楽団の団員かもしれない。

古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

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