孤独の歌

初版 2023/12/10 00:27

スヴャトスラフ・リヒテルのシューベルト 異世界の孤独

シューベルト/アレグレットハ短調D.915 

歌曲『冬の旅』の直後に書かれたか、1827-8年頃の、もがいている音がする。


表現として弾いた音形は彼の頭の中では和音の構成ではなく、肉声の歌として響く。
そこから音楽は譜面に写され、歌は彼の技法の中に閉じこめられてゆく。
まるで鮮烈な孤独の雰囲気と共にパウチされたレトルトのように。
ピアニストが鍵盤の上に落とす指先とペダルの爪先に籠めた余韻によって封を切られた音楽は、いきなり自分の孤独を思い出したように自分の居所がわからずに立ちつくす。


安息の袋の中で眠っていたいのに、それは無意識に聴くものの耳を通じて聴くものの意識したこともない、自身の孤独が膝を抱えてじっとしている暗い場所に誘う。


シンプルな音形が白鍵と黒鍵を行きつ戻りつする中に、籠められた音と音の間隙をゆっくりと掘り返してゆくようなリヒテルの演奏は、彼が異常なほどの遅さで弾いたシューベルトの最後のソナタを思い起こさせる。
彼の、あの譜面を前に置きながらその譜面の音の間を力づくでこじ開けていたリヒテルの異様な集中力がこの作品の演奏でも聴ける。
音域の狭い音楽だけれど、孤独の縦幅は異様に深い。

リヒテルの演奏は鬼気迫るけれど、相変わらず録音状態がよろしくない。

初めてこの曲を聴いたのはブレンデルの中庸の美しさだった。
美しくたおやかなアレグレット。
何度も聴いた。彼の指で旋律が持つ孤独は削り尽くされて核心の輝きをインテンポで刻む。孤独はそれなりの装いで転調するごとに変化する顔を見せる。

リヒテルのアレグレットは音楽から研磨された澱んだ滓を纏ったまま突然耳の中に広がる音楽。

この音楽家の本音が語れぬ物すさまじさは、こんな短い曲の中にも僕が知りようもない、音楽を愛する彼の生きている環境の酷烈を想像させてしまう。

古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

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