未完の完
初版 2023/11/05 15:36
シューベルト/ピアノ・ソナタ第6番ホ短調 D566
第1楽章 モデラート
第2楽章 アレグレット
第3楽章 アレグロ ヴィヴァーチェ
この作品はホ短調で始まり、ホ長調ではなく、変イ長調のスケルツオ風の楽章で終わっている。
ソナタ形式が4楽章に至らず、開いたままであるといわれるのはわかるけれど、作品自体が未完かというと、何となくこれでいいんじゃないかと感じている。
でも、それでは満足出来ない方がいて、第4楽章にホ長調のロンド:アレグレットを持ってきている人もいれば、リヒテルのように、何と第2楽章に第3楽章を使い、第2楽章のアレグレットを第3楽章(終楽章)として演奏してしまう人もいる。(今回サンプルに挙げた演奏)
さらに、リヒテルは1978年のライブ盤では、上述したホ長調のロンドを第4楽章として演奏している。
この作品はホ短調で始まり、ホ長調ではなく、変イ長調のスケルツオ風の楽章で終わっている。
ソナタ形式が4楽章に至らず、開いたままであるといわれるのはわかるけれど、作品自体が未完かというと、何となくこれでいいんじゃないかと感じている。
でも、それでは満足出来ない方がいて、第4楽章にホ長調のロンド:アレグレットを持ってきている人もいれば、リヒテルのように、何と第2楽章に第3楽章を使い、第2楽章のアレグレットを第3楽章(終楽章)として演奏してしまう人もいる。リヒテルは1978年のライブ盤では、上述したホ長調のロンドを第4楽章として演奏し、楽章の順番をいじるのはやめている。
でもこの第4楽章を作るというのはちょっと…モーツァルトが白紙で置いたピアノ協奏曲のカデンツァを自作するのとはわけが違う。
作曲者のモチベーションを無視して、他の作品を持ち出してきて、未完成を完成させるのは再現芸術の枠を超え過ぎだと思うし、リヒテルのような優れたピアニストがインテンポでこれをやるとかえって紡ぎ出されるシューベルトが違う顔を見せてしまう。というか不自然な音色のひずみができてる。
未完で終わるのはシューベルトにはよくあることで、断片ですら捨ておくことができない音楽ファンの格好の餌食になる。
自分がその時考えた曲の流れを自身が放棄したということなんだから、勝手に楽章を入れ替えたり、完成させてしまうっていうのは大きなお世話じゃないかと考えるのだが。
まあ、好意的に解釈すれば楽章の序列は全ての楽章を独立させて作曲した後にまとめるつもりだったが、どうしても終楽章ができなかったので放棄したというのならわかる。
つまり未完として知られている楽章の順序は単に出来上がった順番に過ぎなかったという考え方だね。
だから、リヒテルは第2楽章にスケルツォを持ってきたと。
4楽章にロンドを持って来て4楽章に作り替えるよりいいよね。
でも、どっちかというと第2楽章と第3楽章を入れ替えただけのスタイルが僕はちょっとしっくりくるので困るんだよな。
ヒロイックな死を想起させる第1楽章に野卑な第2楽章。
非常に美しいメンデルスゾーンを思わせる旋律を聴かせる第3楽章という並びは、多分リヒテルが21番のソナタと同じ流れを採っているからなのかなとも思う。
シューベルトは意外と終楽章がリリカルなんですね。
ボクはこのソナタの中心はやはり第1楽章の単純だけれど、最初の和音から導かれる簡潔な主題が鍵盤から劇的な感情表現を引き出しながら繰り返される部分だと思っている。この繰り返しがしつこすぎて「シューベルトはよーわからん。」という人もいる。
第5番のソナタがとてもモーツァルト的なシューベルトであるとすればこの第6番の未完成はベートーヴェン的なシューベルトだね。
リヒテルの演奏は個性的で、ダイレクトにシューベルトの晩年に直結するような重さがある。
決然とした和音の後にきっりと描き込まれる悲嘆。
第1楽章の和音から右手が生み出す短い旋律が高まって行く間も、左手は籠もった音でうつむいたまま葬送のリズムを刻む。
それでも、ふと目線が上がるとシューベルトの歌の花が開きそうな気配があるんだけれど、そこから再びベートーヴェン的なパトスにもう一度ダイブする。
第1楽章の様式は弛緩していてカッチンカッチンのソナタ形式とは異なる。
若いときこんな音楽を書いてると長生きしそうにない。
リヒテルの演奏の後、ケンプの演奏を聴くと、ただただ美しい。
音楽は淀みなく流れ、悲嘆はロマンティックで若い気分の沈潜程度。
どちらもそれなりにいいのだけれど、何度も聴き直す音楽はこの曲に関してはリヒテルだね。ボクはだョ。
第2楽章は一転してシューベルトの美しい歌の楽章なのだけれど、リヒテルはこの楽章を第3楽章に持ってきて、楽曲全体に未完成の印象を持たせるスケルツォを第2楽章にあげている。
熟慮の結果なのだろうけど、未完成もまたシューベルトの世界なのです。
当否はともかく、このアレグレットが美しい音楽であることは間違いない。
アレグレットはシューベルト的な長い旋律線。
立ち止まってその場から雰囲気を変える。
第3楽章はちょっとワイルドな音形が多用されるスケルツオといっていいリズム。
これもシューベルトの得意とするパターンではあるが、音楽の中に珍しく何か歌以外のものを持ち込もうとしたのかな。
このスケルツォの野卑と無辜が結びついた不可思議さが一番しっくり来るのはやはり、異様だけれどリヒテルの演奏でした。
D566を美しく弾いた演奏はいくつもあるけれど、人間的で生々しい歌はそこには見いだせない。
リヒテルの第1楽章を(全曲はあまり勧めない好きな人はいいけど………。)
この人のシューベルトはボクが聴く範囲ではちょっと異様です。
リヒテル自身の生きる形と似ていたのかも知れないとちょっと想像したりもします。
Mineosaurus
古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。
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