Person10 ヨアヒム・ラフ 交響ということ

初版 2023/10/21 23:49

ヨアヒム・ラフ/交響曲第3番ヘ長調op.153 『森にて』

Part1 アレグロ 昼(印象と感覚)

Part2 ラルゴ 夕暮れ(夢)
    アレグロ・アッサイ ドリュアスの踊り 

Part3  アレグロ 夜(森の静かな夜、入場と狩りへの出発・ヴォータンとホレばあさんと共に・夜明け)  

第5番の出来があまりにも良かったので、つい期待してしまうんだけど、この作品は第5番ほどではないけれど、いろんなことを考えさせてもらった。

第5番の出来があまりにも良かったので、つい期待してしまうんだけど、この作品は第5番ほどではないけれど、いろんなことを考えさせてもらった。

Part1
を聴いた印象では、なんだか騒々しくてテーマが何処にあるのかわからない。

いろんな旋律が立ち現れては折り重なり厚くなったり薄くなったりして消えてはまたむくむくと形を変えて顕れる。

でも、それは新しいものが同じ場所に出現するのではなく、鬱蒼と生い茂った音楽の草木を分け入っている時間と色彩がもともとあったものの中から次々姿を現しているような部分が多い。

交響詩がテーマとする文学的なものに向かって音楽で叙景してゆくのとは違い、副題は付いているとはいえ、これは絶対音楽としてボクは聴いてる。

リストの交響詩のオーケストレーションを行っていたラフにとって副題はイメージを音楽に載せる手段として比較的禁忌がなかったのかも知れない。

様々な森の自然が音化してあっちこっちから交錯し響き合い重なり合う。音の森が出来上がってゆく。

そんな音楽がそこにあって、ボクらはその中に分け入っている。

それはブルックナーの中にある自然のように創造主のいる場所につながってゆくのではなく、あくまでも鬱蒼たるシュバルトバルトから外に出ない。

生き物の音、木々の音朽ち木が崩れてゆく瞬間のような音それこそ様々な音がまとまろうとするのではなく、響いてくる。

シンフォニックというもの、交響というものはそういうものか。

重層的な旋律がひとつの哀切や抒情を表現するのではない。

散文的というか散音的とでも言い直そうか。特にPart1=第1楽章のイメージはそんな風だった。


ところでボクは最初この副題をあまり意識せず、というか聴いてる交響曲の番号を間違えていたので、なんだか違うんじゃないかとおもってしまったところからスタートしている。第3番を聴いているのだと気づいて、『ああ、そうかも知れない』と感じたことだ。

Part2
 は静かな抒情的楽章。

クラリネットと管弦楽のための音楽とでも言いたい前半は、ラフがクラリネット協奏曲を何で書かなかったのかと思うほど。

メロディーメーカーだね。

この時代のシンフォニストの中でも、師匠のメンデルスゾーンと双璧ともいえるラフにしては抑制が利いていて核になるものがここにも見つかりにくい。渋いけど美しい。

それでも、そこには苦悩とかそんな構えたものがなくて、むしろ単一の旋律で押し通すロマンティックな緩徐楽章を好んだメンデルスゾーンあたりよりも複雑な起伏を保っている。

彼はどうこう言っても、11番までの多くの交響曲を作っている。

需要と供給により成り立つ世界であり、プロである以上これほど多くの水準の高い作品を生み出す動機が、『趣味』であるとは想像しがたい。
その時代に求められたが故の多作であろう事は想像がつく。

畢竟,公開され、評価され、そして楽譜として出版される。

この曲はたしかに彼が作曲した番号付きの交響曲としては3曲目にあたるものなのだけれど、遅咲きの彼にとっては若書きの未熟さのようなものはない。

プロとして出来上がった作品です。

明朗な推進力と舞曲の混交するPart3、そしてここで懐かしく思えるような歌が浮かび上がってくるフィナーレ。

それは、森の出口を見つけたようで、全体としての交響曲を締め括る。

ボクが聴いたCDの帯を書いていた方がいみじくも『作曲者の苦悩の投影だけが音楽芸術ではない』という意見には賛成だけど、ラフの音楽を楽天と総称する論評には納得していない。

彼がその時代に求められたシンフォニーというものはこういうものだったんじゃないだろうか。

彼のピアノ三重奏曲のように数が少ないアンサンブルの骨組みが聞き取れるほど極めて耳に接近した場面で鳴らされる作品については、決して毒はないにしても、楽天的ではないのだから。

彼がもし、ピアノソナタを残していて、今後それがCDとして世に出される機会があれば、もっと核心に近づけるかなあ。彼が残しているピアノ曲は少なくはないが、どれもやはり耳に心地よい。例えば幻想曲作品142。でも、こういうのはもう、さんざん師匠であるメンデルスゾーンがサロンでやってた音楽とあまり変わりはなさそうだ。きれいだけど。

求められる音楽をその期待通りに作って見せる。それが誰よりも巧みだった。才能だねそれも。



古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

Default