Person 9 ビーチ夫人(エイミー・ビーチ) 交響曲ホ短調作品32

初版 2023/10/11 13:11

改訂 2023/10/11 13:11

Amy Beach/Symphony in e op.32 (Gaelic=ゲーリック風)

                    ゲーリックは夫人のルーツであるアイルランドのケルト民族の呼称

第1楽章 アレグロ コン フォーコ
第2楽章 アラ シシリアーナ-アレグロ ヴィヴァーチェ-アンダンテ
第3楽章 レント コン モルタ エスプレッシオーネ
第4楽章 アレグロ ディ モルト

ボクはあまり聴いたことのない作曲以下の音楽については器楽や室内楽から聴く。大体ピアノが入ったトリオとかカルテットを聴けばその作曲家のスケール感が想像できる。交響曲も普通は3オクターブのピアノの範囲内に収まるわけで、先ずピアノ曲や室内楽で聴いてみる。

でも、彼女の場合、初めて聞いたピアノ五重奏曲とこのシンフォニーとはえらく違って聞えた。正直作曲家としての彼女のこんなスケールは想像していなかった。

アイルランドがルーツである彼女自身は、アメリカ合衆国で生まれ。最初に自作交響曲をベルリンフィルハーモニカーが演奏した作曲家にしてピアニストである。
第1次大戦で1914年にドイツから強制送還されるまで、その活動の本拠をドイツに置いた。
そして、彼女の最も輝いていた時代もこの頃だ。
彼女の書いた唯一の交響曲は『ゲーリック』という副題がつけられているが、いわばイギリス諸島の民族音楽を取り入れた歌謡楽章からケルト民族、ひいては『アイルランド風』とでも言うようなものだとされている。

第1楽章は女流などという言葉がぶっ飛んでしまうほどの堅固で精密な構築。
風通しのよいブラームス。
そのたたみ掛けるようなアクセントはセザール・フランクのようなブラームス張りの厚みをともなって鳴り響く。

オーケストラの息づかいがもう少し作品の間合いを詰めてくれたら…という気もするけれど、ぎこちなさなどどこにもない。
この人の天才はブラームスのみっちりと目の詰んだ頑丈なフレージングにワグナーのような和声が奇妙に調和していることか。
ただ、第1楽章は、ベルリンフィルがこれをイメージするのにブラームスを想起したのがよくわかる。
音を色彩として捉える特殊な能力(能力ともいえるし、ある種の精神疾患ともいえる。)、『共感覚』というのがある。この人もドビュッシーやマイルス・デイヴィス、現代のピアニスト、エレーヌ・グリモーと同様この感覚を持っていた人らしい。
フランス音楽のようなオーケストレーションの色彩感覚の豊かさはその辺の能力と関連があるのかも知れない。
ブラームスのモノトーンの煌めきと異質の色彩の重層的音構造が目の詰まった音楽を息苦しく感じさせない大きな要因だろう。


第2楽章は牧歌的なホルンの中に民謡風のメロディが流れ、それがクラリネットに引き継がれて行く。
管楽器が非常に美しい。
そして弦のトレモロの中から、スピーディなアレグロ・ヴィヴァーチェが始まる。
弦楽、管楽の交錯が遁走的に進行する。トライアングルがなければ、ちょっと懐古的。


第3楽章の抒情と民族的なカンタービレは、ワグナーの融通無碍と結びつき、感覚的に優美で実にメロディアス。
ヴァイオリンのソロに顕れる歌は爽やかで麗しい。
ブラームスの第1交響曲のオクターブをあげてオーケストラの上に出るヴァイオリンのあの瑞々しいソロを思い出させる。
第4楽章もフィナーレにふさわしい活発なシンフォニーだけれど、弦楽がテーマと交差する部分の数瞬の音の交感の間が、おそらく、この演奏よりはもう一段と厳しいやり方で演奏されるともっと映えるのだろう。
この楽章の血は完全にアイルランドの夕日の中に沈む太陽の色だ。

こういう曲の作り方をすると、多分一曲でもう事足りるんだろうな。
この後彼女は様々な音楽技法を取り入れて、自分の芸術的な引き出しを広げて行くのだけれど、彼女が作りたい音楽と聴衆が聴きたい音楽はこの交響曲当たりで交差し、互いに後は遠くに離れて行くだけだったのかも知れない。

古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

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